小学校に乱入し、次々と児童を殺傷した男は、精神病とみなされていたが、斉藤の指導医・伊勢谷は報道から彼が詐病しているのではないかと疑い、それを新聞記者・門脇に伝える。「精神障害者を装えば無罪になると思ったんでしょう」。
「精神病だから凶悪な事件を起こす」という誤った流れはひとりの医師、ひとりの新聞記者の力で止められるものではない。
その一方で、そういう報道を見て斉藤の担当する患者たちは深く傷つき、世間は彼らに不信の目を向け、冷たい態度を取る。何の根拠もない報道が精神病患者たちの社会復帰を妨げる原因にもなっていく。
医師は患者を退院させたがり、世間はそれを受け容れることを拒否する。患者をずっと病院に閉じ込めておけ、と言わんばかりに。
凶悪事件を起こした者は精神病を詐病していたことが明らかになるが、マスコミの過熱報道によって、精神障害者を危険視する流れは加速していた。その渦中に、斉藤の担当する患者・小沢が退院する。退院した小沢を待っていたものは、いわれのない差別だった。居場所がないと感じた小沢は追い詰められ、斉藤の目の前で病院の屋上から飛び降りてしまう。「僕は飛べるんだ。」
この問題は、弱者を追い詰めて行く典型例のようにも思える。無理解と非寛容が弱者を社会から排除していく。そして、そういう社会は本当は生き難いもののはずだ。自分がいつ弱者になるかわからないという自覚さえあれば、ひとはそういう社会にはしたくないと思うだろうが、私たちは知らず知らずのうちにそういう可能性を考えないようにしている。
斉藤が担当する統合失調症の患者・小沢は、院内で出会った女性患者に恋をした。彼の退院が近づいたとき、男が小学校に乱入し、児童を次々と殺傷するという事件が起きる。そして、報道はお決まりの「容疑者は精神病院へ入退院を繰り返していました」というフレーズを多用する。
この巻は、医療と報道の在り方について問いかける。
精神病患者が犯罪を起こす確率は、健常者が犯罪を起こす確率よりも低い。それでも、報道も、私たちも「精神病だからこんな凶悪な犯罪を起こしたのだ」という何の根拠もない言葉に納得しようとうする。「彼は私たちとは違うのだ。だからこんな凶悪な犯罪を起こすのだ」と納得したがっている。しかし、ほとんどの犯罪は健常者が起こしている。「私は大丈夫」というなんの根拠もない安心が犯罪を起こす。
DVDで鑑賞。
『ヱヴァンゲリヲン』をリアルタイムに観ていたひとたちには評判の悪い「新劇場版」。「序」はこれまでの『ヱヴァンゲリヲン』を引き継ぎつつ、「破」でこれまでの『ヱヴァンゲリヲン』とは違う物語に進むことを示した。そして、この「Q」では、もはや別物の『ヱヴァンゲリヲン』が展開されていく。これが従来の『ヱヴァンゲリヲン』ファンには受け入れられないらしい。
私は幸運にも(?)『ヱヴァンゲリヲン』をリアルタイムで観ていない。なので、素直に「こういうのもアリだよね」とすんなり受け入れられる。そして、すでにいるはずの観客の期待を裏切る(正確には期待を越える)ことに敢えて挑戦する、という心意気を感じられ、私はこの「新劇場版」が好きである。
ガンダムを作ったトミノさんが、「新訳」と称して作った「Zガンダム」がトミノさんお得意の切った貼った(編集)で、しかも劣化版でしか過ぎなかったことを思うと、庵野監督の「新劇場版」という挑戦は賞賛に値する。
内容は、14年間宇宙空間を漂っていたシンジ君がアスカの手によって帰還。しかし、浦島太郎のシンジ君は失われた14年後の状況が全く理解できず(←これは観客も同じである)、オトナたちに拒絶されながらも、そんな彼に救いの手を差し伸べてきたカヲル君の手を握り返す。差し伸べられたカヲル君の手にかすかな「希望」を見出したシンジ君は、そのかすかな「希望」にしがみつく。そして、状況をさらに悪化させてしまう。
すべてはゲンドウ君の手のひらの上? 私たちはやり直しの効かない世界で、ただ前に進んでいくしかない。
水中特攻兵器「回天」での作戦に臨んだ渡辺は「回天」の故障により出撃できず帰還。目標を失い、心定まらない渡辺に、軍上層部の人間から心無い言葉が…。
この巻で描かれるのは、沖縄戦、そしてB29の爆撃により焦土と化していく日本。かって私の住んでいた町が爆撃される様も描かれる。私が子どもの頃には、まだ防空壕の跡も残っていたし、不発弾が埋まっているかもしれないから立ち入り禁止という場所もあった。確かに、日本は戦争をしていたのだ。最初から負けることがわかりきっていた戦争を。
渡辺は、兵士として守るべきものを守るために戦うと心に決めて立ち直ろうとするが、その矢先、空爆により守るべき家族を失う。そんな渡辺に待っていたものは、再び「回天」で出撃せよ、との命令だった。負けることがわかりきっている戦争。それでも兵士たちは出撃していく。
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