『55歳からのハローライフ』(村上龍著)老いと向き合っていかなくてはならないすべての世代のひとたちに向けた物語。
タイトルを見たとき、村上龍さんには『13歳からのハローワーク』という著作があるので、どうしてもその姉妹品のように思ってしまった。「ハローライフ」なのに「ハローワーク」と空目してしまったり。
この短編集は、村上龍さんの小説には珍しく、登場人物たちに寄り添うように書かれている。20年前の村上龍さんだったら、これらの物語に登場する人物たちは、まとめて姨捨山に連れて行け、と声高に叫んでいただろう。しかし、村上龍さんも良くも悪くも老いた。そして、老いて初めて、これらの物語に登場する人物たちを突き放し見下すのではなく、寄り添い同じ目線で見ることができるようになった。村上龍さんはやっと老いという自然の摂理を受け容れることができるようになった。
「お金や健康など、不安はある。不安だらけと言ってもいい。だが、人生でもっとも恐ろしいのは、後悔とともに生きることだ。孤独ではない。」(『結婚相談所』より)
これは、村上龍さんが、彼の同世代のひとたちに、そして、これから老いと向き合っていかなくてはならないすべての世代のひとたちに向けたメッセージだろう。
『空を飛ぶ夢をもう一度』のラストの言葉も胸に刺さる。これは実際にこの本を手にとって読んでほしい。
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