映画『麦子さんと』悲しみや喪失感を取り戻すことでひとは強くなる。
『麦子さんと』
監督:吉田恵輔
兄(松田龍平)と二人暮らしの麦子(堀北真希)のもとに、ある日、自分たちを捨てた母親(余 貴美子)が突然舞い戻ってくる。顔も覚えていない母親との生活に戸惑う麦子は母親とどう接してよいかわからない。そして投げつけた一言、「あなたのこと、母親と思ってないから」。それからすぐに、母は帰らぬ人となった。納骨のために母親の故郷へ行った麦子は、それまで知らなかった母親の姿を知ることになる。
人というものはなくすことでしか大切なものに気付かないものだ。火葬場で母を見送ってもなお悲しみや喪失感が沸かなかった麦子が、その感情を取り戻すところでこの映画は終わる。母親がアイドルになることを目指していたように、自分も声優になることを目指している。母親はアイドルになる夢は破れ、結婚して離婚して子供に会いにくることもできず、そんな母親の人生を受け容れる強さを獲得していく様を淡々と映画は描いている。
この映画は丁寧に丁寧に作られている。あの場面はこの場面に繋がっている、ということが手に取るようにわかる。ただ、この丁寧さが仇になってしまっているようにも感じた。伏線というものはここ一番の場面に張っておくもので、やたらめったら張るものではないだろう。もっとお客さんを突き離すことを覚えれば、この映画監督は凄くなっていくような気がする。
主演の堀北真希さんは、いつまでもフレッシュさを持ち続けることができる稀有な女優さんだと思う。こういう「何にもできそうにない女の子」を演じさせると神である。
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