2013年の本: リベラルな保守は評価と贈与を目指し、特攻隊員は論語をウェブで語る。
2013年を振り返り。今回は本。ちょっとした手違いで2014年の元旦にアップ。あけましておめでとうございます。
『「リベラル保守」宣言』(中島岳志著)
私の「保守」というものに持っているイメージをガラリを変えた本。保守という立場は、「人間の能力には限界がある。人間の理性や知性は万能ではない」ということに立脚する。人間が不完全な存在である以上、社会もまた不完全なまま移り変わっていく。だから、保守は人間の理性や知性を超えたもの、すなわち、歴史的に蓄積されてきた社会的な経験知や集合的価値観を拠り所にする。ゆえに、社会は特定の人間の知性によって運営されるべきではなく、私たちは私たちの社会をちょっとづつより良き方向に導いて行くしかない。この考えに私は合意する。
『評価と贈与の経済学』(内田樹、岡田斗司夫FREEex著)
資本主義が発達しすぎた社会は、「お金さえ持っていればなんとか生き延びられる」社会だと言えるかもしれない。しかし、3.11以降、私たちは「お金さえ持っていればなんとか生き延びられる」社会が崩れていっていることを薄々気づいている。これからは「人柄」こそが評価される時代になっていく。「人柄」の良いひとを中心に、お互いに助け合い、生き延びることができる社会が形成されていくのかもしれない。
『超訳 論語』(安冨歩著)
安冨さんの「超訳」は、「学習回路」を常に開いて生きなさい、という「論語」である。「学んで時にこれを習う、亦たよろこばしからずや。」で始まる「論語」は、「学習」の喜びに人間の尊厳と人間社会の秩序の形成の基礎であり、「学習回路」を常に開いている状態が「仁」であるとする。逆に「悪」とは「学習回路」が閉じた状態であるとする。「学習回路」が開いている状態であればものごとを良い方向に良い方向に導くことができるが、「学習回路」が閉じている状態であればものごとを悪い方向に悪い方向に導いてしまう。「学習回路」を常に開いていたいものだ。
『特攻の島 5』(佐藤秀峰作)
特攻兵器・人間魚雷「回天」に搭乗した若者を描く物語の第5巻。回天の搭乗員の渡辺は、その出撃間際の故障により回天に閉じ込められたまま出撃できなくなる。図らずも生き残った渡辺を待ち受けているのは上官の心ない言葉だった。人間は致死率100%の生き物には違いないけれども、死ぬために、死ぬのを目的に生きている、というひとはいないだろう。だからこそ、「死ぬために生きた」特攻隊員が「生きる」この物語は私の心に突き刺さる。
『ウェブで政治を動かす!』(津田大介著)
津田さんが政治にもの言うようになったのは、「政治や政策に無関心でいては、自分の好きなものがいつか誰かの勝手な都合で変容させられてしまう。」と気づいたからだと言う。ウェブもデモと同じような効力がある。ソーシャルメディアでの書き込みは、「こんなことを考えている国民がこれだけいるのだぞ」という意思表明であり、政治家たちもそれを無視することができなくなっている。もっとも、デモをテロだと言ってるアホな政治家もいるらしいが。
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