『なぜ少数派に政治が動かされるのか?』(平智之著)0.6%の少数派が富を得るために、原子力発電所が、非効率な発電・配電システムが、維持され続けている。
著者の平智之さんは「禁原発」という主張をされている。原子力発電の推進派、所謂「原子力ムラ」のひとたちは日本の人口のたった0.6%。しかし、あの3.11のフクシマの事故が起こり、今もなおどこかの国の総理大臣が言うような「アンダー・コントロール」されているとは言えない状況の中でも、0.6%の少数派の主張が通り、原子力発電所が動き続け、さらには輸出されようとしているのか。それは、0.6%の少数派が大きなパイを少ない人数で享受するために、官僚や政治家をうまくコントロールしているからだ。0.6%の少数派が富を得るために、非効率な発電・配電システムを維持し続けている。
0.6%の少数派のひとたちが官僚制度を利用し、組織的な政治家への陳情を行うなどをしていることに対し、原子力発電に反対するひとたちはそういう組織的な動きができていない。それぞれ主張が異なる部分があり、まとまることができない。主張官邸前でデモをしているひとたちは個人個人であったり、小さなグループの集まりであって、それでは組織的に徒党を組んで原発を推進するひとたちには敵わない。
では、どうしていけば良いのか。残念ながら、この本にはその有効な手段が何も書かれていない。この本の枕の部分で問題提起ができているのに、この本のほとんどが著者の政策披露の場になってしまっていて、その解決の道標が示されていない。「インターネットでも何でも使って、実態を、自分たちの声を議員に届けるという努力はぜひともしていただきたい。」という言葉だけでは、著者の主張する「禁原発」が実現するとはとても思えない。その点が残念だ。
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