『「リベラル保守」宣言』(中島岳志著)私の「保守」に対するイメージをガラリと変えた本。
私の「保守」に対するイメージはというと、文字通り「保ち守る」。つまりは進歩というものを拒絶しているイメージを私はもっていた。一方で私は、社会を一気にひっくり返す革命などというものは人間的ではないし、最近流行りの「グレートリセット」なとというものにも懐疑的である。そして、昨今の保守と目される政治家が自分の党をぶっ潰すだとか、「グレートリセット」などと言いだしていることに違和感も感じていた。そういう破壊的なことが保守と言えるのか。
そんな私の違和感に答えてくれたのがこの本だった。
保守という立場は、「人間の能力には限界がある。人間の理性や知性は万能ではない」ということに立脚する。人間が不完全な存在である以上、社会もまた不完全なまま移り変わっていく。だから、保守は人間の理性や知性を超えたもの、すなわち、歴史的に蓄積されてきた社会的な経験知や集合的価値観を拠り所にする。
よって保守は人間は正しい理性や知性によって理想的な社会を設計することはできない(その妄想こそが共産主義やファシズムを生んだ)とするし、ましてや特定の人間が設計する社会を理想としない。特定の人間の能力を万能とみなすことは保守に反することだからだ。
なので、俺は選挙で選ばれた首長なので俺がすることが正しいんだ、とか、今の社会をぶっ壊すんだ、「グレートリセット」だ、とか言っている態度は、保守ではなく、それは傲慢でしかない、ということだ。
そして、保守は人間の能力は万能ではない、という立場に立つのだから、原子力を人間の能力によって制御できるものではない、と考えるはずだ。だから、原子力発電所は暫定的に廃炉にする、というのが保守を謳う政治家の正しい姿のはずだ。しかし、今の日本の保守といわれる政治家たちは原子力発電所を稼働させたくて仕方がない、原子力発電所を輸出したくて仕方がない。つまり、彼らは保守という仮面を被った金儲け主義者と言えるかもしれない。
中島さんの言う意味での「保守」を私は支持する。社会は特定の人間の知性によって運営されるべきではなく、革命や「グレートリセット」などといった破壊的な手法で変えていくべきではないと私は考える。つまりは私たちは私たちの社会をちょっとづつより良き方向に導いて行くしかない。拙速で扇動的な政治家を私たちはもっと警戒すべきだろう。
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