『出光佐三 反骨の言魂 日本人としての誇りを貫いた男の生涯』(水木楊著)海賊と呼ばれた男は青臭い理想を生涯貫いた愚直なひとだった。
最近では「海賊と呼ばれた男」と呼ばれている出光佐三の物語。私は出光のコンビナートの街で育ったのだが、出光佐三という人物のことも、日章丸のことも知らなかった。しかし、この本に描かれている出光佐三の姿はとても興味深い。
出光という人は、反骨というよりは、青臭い理想を生涯貫いた、愚直なひとのように思える。自分の信念に忠実で、自らの信念を曲げずに貫き通し、熱心に仕事をする。その姿が、周囲のひとたちの信用、信頼を勝ち得ていく。その愚直な姿勢ゆえに敵も多かったようだが、その家族を始め、味方になる人間がどんどん彼のもとにに集まってくる。
今や銀行は財務諸表をもとにお金を貸すかどうか決めているのろうが、そもそも銀行家は人を観てお金を貸していたものだ。そういう目利きがいなくなったのかもしれないし、そういう目利きに目に留まる起業家がいなくなったのかもしれない。いずれにしろ、出光という自分の理想に愚直なまでに忠実な人柄が信用を生み、お金を貸してくれたのだと思う。そして、これらは人間のスペックよりも人柄が信用を生む世の中になっていくだろう。
出光という会社はタイムカードがない、定年がない、労働組合がない、まさに社員を家族のように扱っている会社だ。今は株式公開に向けて準備をしているそうだが、そういう創業者の理念というものは守ってほしいと思う。どこかの松下さんの会社のように、グローバル化だとか言いながら創業者の理念をなくしたような会社は、どんどん魅力がなくなっていくだろう。
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