『明日の空』(貫井徳郎著)ミステリィではなく青春小説として読むと、この物語は全く別の形を見せる。
帰国子女の栄美は不安いっぱいで日本の高校での初日を迎えた。幸いにも友達ができ、気になる男の子とも仲良くなれた。しかし、気になる男の子ともすれ違いが続き、やがて別れを経験することに。しかし、大学生となった栄美の前に現れたある人との出会いから、高校時代の思い出はまったく別の形を見せてゆく。
重苦しい作品が多い著者には珍しく明るい作品。しかし、この作品は映像化できないなあ。ミステリィだから肝心な部分を隠すのは当然かもしれないが、その隠し方がフェアじゃないとも思えたし。
しかし、ミステリィではなく青春小説という読み方をすると、この作品はまったく別の形を見せる。
「ひとりひとりが自分勝手なことをしたら、それが積もり積って大変なことになてしまうかもしれない。でも逆に、ひとりひとりが他人のために何かをしてあげられたら、ちょっといいことに繋がりそうじゃないか?」
良い行いも悪い行いも連鎖する。これが著者の作品の根底に流れるテーマなのかもしれない。明日の空を晴れさせるのも曇らせるのも雨を降らせるのも、じぶん自身の行いにすべてかかっている。
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