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2013年6月12日 (水)

『暗い夜、星を数えて: 3・11被災鉄道からの脱出』(彩瀬まる著)この本もまた、暗い夜に灯る小さな光である。

著者は、25歳の作家。2011年3月11日、彼女はたまたま東北をひとりで旅していた。彼女は常磐線の新地駅で大地震に遭う。命からがらで津波から逃れ、避難所から見知らぬ人の家で夜を明かす。そんな彼女に、原子力発電所の事故の知らせが飛びこんでくる。

「リカコさんが地震の最中に私の腕をつかんでくれたことから始まり、それから様々な場所を転々とする間、私はそばにいる人とお互いの存在を確認し合うことで苦痛の時間を超えてきた。そうでなければ、耐えられないほど暗い川だった。」

震災後、「絆」という言葉が持て囃されたが、そんな綺麗な言葉ではなく、こういう実感が彼女を、被災したひとたちを支えてきたのだろう。たまたま列車の席が隣り合わせだったひとの温かさ、見ず知らずの自分を家に泊めてくれた家族の温かさ。地元ではない、見ず知らずのひとたちが暮らす地で被災し、不安にかられる彼女を支えたのは、そういう実感が伴うひとの善意だった。

「人生において、『数分前には想像もできなかった極めてむごいこと』は、本当に起こる。起こってしまうのだと、もう日本中の誰もが知っている。そのむごいことに殺されるか、逃げ切るか、それは本当に紙一重でしかない。」

しかし、人間は、そうはわかっているつもりでも、それが自分の身に降りかからないかぎり、所詮は他人事にしか思えないものである。それを埋めるのは、実感するか、想像するしかない。その後者の仕事を担っているのが、文学であり、映画であり、芸術なのかもしれない。しかし、そういう仕事は思ったよりも少ない。

この手記を読んで感じたのは、彼女が自分の気持ちに正直に、この大震災、そして原子力発電所の事故、そして被災したひとたちと向き合っている、ということだ。彼女は福島にボランディアで瓦礫の撤去の手伝いにいくが、そこで農家の方からお礼に野菜をいただく。彼女はその方の善意はありがたく感じるけれど、その野菜を食べることには躊躇いを感じる。道徳や倫理を振りまわしてそういう彼女の気持ちを責めるのは簡単だ。しかし、そういうひとは実感も想像力もないから道徳や倫理を振りまわせるのだ。決して優等生的でないところが、この手記を輝かさせている。この本が、暗い夜の小さな光であるように。

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