『村上龍と坂本龍一 21世紀のEV.Cafe』(村上龍,坂本龍一著) だから、小説を書こうよ、龍さん!
村上龍と坂本龍一、2人の龍がEV.Cafeで邂逅したのは80年代だった。この本は、1998年から2000年まで展開された対談、鼎談『EVCafe2』の単行本化。連載をしていた「エスクァイア日本版」誌が廃刊になり、まさに幻の対談となっていたようだが、それに3.11以降の村上龍と坂本龍一との対談を追加している。「21世紀の」という意味では、『EVCafe2』は時代に即していない。この本の読むべきは冒頭の3.11後の2人の龍の対談だろう。
「坂本とひさしぶりに会うと、いや、会うこと自体は楽しいんだけど(笑)、話題がこうなることはわかるから、憂鬱と言えば憂鬱なんだよね。」(村上龍)
大津波と原子力発電所の事故により、これまで隠されていたものが私たちの目の前につきつけられている時代。それでもそれを「なかった」ことにしたいひとびとや勢力がいる。そして、2人の龍はそういう状況を怒っている。そういう時代だからこそ、街に出て声を上げよ、と坂本龍一は言う。なにも変わらないかもしればいが、そうやって声を上げることが大切なのだと。
「編集者がよく、3・11以降には書くことがないという作家や、書けなくなった作家がたくさんいるって言うんだけど、おれにはそれがよくわからない。3・11によって露出したものを、時代状況に甘えないように書けば、モチーフにしても書き方にしてもそんなに大きく変わらないはずなんだ。気持ちのわるいアンフェアな感じを、誰を主人公にして、どういうモチーフで伝えればいいのかなってずっと考えている。」(村上龍)
だから、小説を書こうよ、龍さん! 長い引用になってしまったが、3・11後の村上龍の小説を読んでみたい、と待ち望んている読者は私だけではないだろう。
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