『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄著)いろいろなしがらみに足を引っ張られて、それでもなお生きていくひとたちの物語。
あるひとから、オススメの作家として窪美澄さんを紹介してもらったので読んでみた。
コスプレ趣味の主婦と週に何度かセックスしている高校一年の斉藤くんの話から始まり、姑に不妊治療をせまられるそのコスプレ趣味の主婦の話、斉藤くんに想いを寄せる女子高校生の話、ぼけた祖母と二人で暮らす斉藤くんの親友の話、助産院を営みながら、女手一つで息子を育てる斉藤くんの母親の話、へと物語は繋がっていく。
この物語には、ほとんど父親が出てこない。出てきてもどこか頼りなく存在感がない。父親の不在ということが、これらの物語のウラで影響しているのかもしれない。
そこで描かれているのは、その生まれや生い立ち、育ってきた環境や新しく家族になったひとに、まさに「足を引っ張られ」、もがきながらも、生きていくひとびとの姿。沼にはまってずぶずぶと沈んでいくかのような彼らの物語に、決して最後に救いや希望を見出すことはできない。でも、彼らは生きていく。
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