【安吾を読む】『白痴』私は、戦争が終わっても生き延びたであろう、伊沢と白痴の女のことを想う。
坂口安吾の代表作のひとつ。
映画会社に務める伊沢は、豚と家鴨が同居する珍妙な下宿に住んでいる。伊沢は芸術を志していたが、芸術への志を失った映画会社から貰う二百円の給料を失うことにびくびくしている。ある日、その隣に住む白痴の女が突如部屋に現れたことから、彼の生活が変る。やがて伊沢の住む地域にもバクダンが投下される。火の海となった地上で、伊沢は白痴を連れて逃げる。
「米軍が上陸し、天地にあらゆる破壊が起り、その戦争の破壊の巨大な愛情が、すべてを裁いてくれるだろう。考えることもなくなっていた。」
しかし、米軍は東京には上陸して来ず、戦争は終わることを私たちは知っている。私は、この作品を読んで、戦争が終わって、生き延びたであろう伊沢と白痴の女のことを想わずにはいられない。
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