『共喰い』 (田中慎弥著)読みどころは、文庫版のボーナストラック、瀬戸内寂聴さんとの対談。
2012年の第146回芥川賞受賞作にして、「もらっといてやる」発言が話題になった田中慎弥さんの「共喰い」が早くも文庫化。これを機に読んでみました。一言で言うと、「血は争えない」 。血縁という呪縛が下敷きになっている純文学作品でした。
私が面白かったのは、文庫版のボーナストラック、瀬戸内寂聴さんとの対談。源氏物語の話が面白かった。六条御息所が葵上の枕元に生霊として現れ、生霊を退散させるために焚かれた芥子の匂いが六条御息所に染みついた場面について、寂聴さんは、こう言う。
「でもあれはね、私は六条御息所の観念的な恐怖心が、においを嗅いだのであって、本当は何もなかったと思うんですよ。」
ただ、生霊が現れたというオカルトではなく、六条御息所がありえもしない匂いを嗅ぎ、その匂いを読者も嗅ぐ。そんな匂い立つような物語だからこそ、源氏物語は1000年の時を超えて読みつがえているのかもしれない。
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