『移行期的混乱: 経済成長神話の終わり』(平川克美著)成長戦略よりも成長しなくてもやっていけるための戦略がないことが問題。
この本は、3.11後に書かれた本ではなく、3.11より前、所謂リーマンショック後に書かれた本であることに、まず驚かされる。2008年のリーマンショックは、「100年に一度の危機」と呼ばれたが、平川さんはそうはとらえない。私たちは、これまで日本が経験したことのない局面に入っているのだと、平川さんは言う。2006年以降、日本の人口は減少をし続け、人口が減少するという局面は日本の有史以来、一度もない。つまり、これからは私たちは過去の成功体験が全く通じない時代を生きていくということである。人口が減っていく局面では、かってのような経済成長は望むことはできないのに、それでも経済成長というかなわぬ夢を追い続けることにより出口が見つからず、しばらくは混乱が生じるだろう。そして、やがて調整局面に入って、新しい生き方や政策を発見していく。人口が減り続けることは、民主主義、消費文明、都市の膨張、家族形態の変容などの結果であり、人口を調節していく過程と捉えることにより、見えてくるものがあるかもしれない。
平川さんはこう言っている。
「問題なのは、成長戦略がないことではない、成長しなくてもやっていけるための戦略がないことが問題なのだと。」
アベ政権は2パーセントのインフレターゲットを設定し、無理やりに経済成長をしようと躍起になっている。もちろん、私も経済は成長するに越したことはないと思っている。それにより私たちの雇用が守られ、新たな雇用を生み、賃金が上がるのなら、私は経済成長を望む。しかし、日本銀行が輪転機を回して日本銀行券を刷り続け、ものが売れるようになり、企業が儲かって利益を出すようになったとしても、雇用の確保や創造、賃金アップにはつながるとは思えない。なぜなら、企業は株主や株価を気にして、例え儲かって利益が出ても、それを従業員には回さずに、将来の不安を理由に溜めこんだり、株主への配当に回すことが考えられるからだ。インフレターゲットの設定に呼応して、儲かった企業がその儲けを従業員に回さなければ、アベノミックスなどと呼ばれるものは絵に描いた餅になるだろう。
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