『リライブ』(小路幸也著)「あのときこうしておけば良かった」という後悔はなるべくしたくないもの。
死に逝くひとの前に現れて、そのひとの<思い出>をいただくという「獏」(バク)。獏は夢を食べる空想上の動物とされているが、この物語の獏は<思い出>をいただく。その代わりに、人生で失ったものを一つだけ取り戻すことができるという。死に逝くひとが「あのときこうしておけば良かった」と思えるときに、そのひとの人生を戻し、やり直しをさせてくれる、というのだ。これは、その取引に応じたひとたちの物語である。
人生は、「あのときこうしておけば良かった」という後悔の連続である。しかし、ひとは、「あのときこうしておけば良かった」という、できなかった・しなかった選択の行く末を見ることができない。それはそうだ、たった1度の人生だもの。それを見せてくれる、というのは魅力的な提案に違いない。
しかし、その提案が魅力的であれば、魅力的であるほど、「あのときこうしておけば良かった」という後悔はしたくないと、この物語を読む「生きている」読者は思わずにはいられないだろう。そして、この物語で語られる「あのときこうしておけば良かった」という後悔は、自分のためではなく、他の誰かを思いやっているが故に発せられるものである。それだけに、なおさら、「あのときこうしておけば良かった」という後悔はしたくないと思わずにはいられないだろう。誰かを思いやっているが故に発せられる「願い」。それが人生を変えていくものかもしれない。
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