映画『偽りなき者』 これは私たちの身の上にも起こりうる恐怖である。
映画『偽りなき者』Jagten
監督:トマス・ビンターベア
保育園で働くルーカス(マッツ・ミケルセン)は、親友テオの娘クララの作り話がもとで変質者の烙印を押されてしまう。ルーカスは仕事も親友もすべてを失ってしまう。その上、町中のひとからも侮蔑や憎悪の眼差しがむけられ、日に日に彼に対する嫌がらせや迫害が激しくなっていく。それでもルーカスは自らの尊厳をかけて、無実を訴え続けるのだが……。
「子どもは無垢な生き物である」「子どもは嘘をつかない」。かっては誰もが子どもであり、自分が子どもの頃はズル賢く、嘘もいっぱいついたはずなのに、大人はそれを忘れたかのように、そんな戯言をいとも簡単に信じてしまう。
疑惑を持たれたルーカスも、まさか園長や親友が自分がそんなことをする人間だとは思っていないだろう、と思っていたはずだ。しかし、彼の思いはあっさりと裏切られる。そして、周りのひとびとが手のひらを返したように、彼に冷酷に接することに深く絶望する。
ルーカスは警察に逮捕されるも立件されず釈放される。この時点で法律上も彼は無実であると見なされたわけだが、それでも彼の周りのひとびとは、これまで以上に彼を追い詰めていく。
それでもルーカスは気丈に振る舞い、親友の誤解を解いていくのだが、、、この物語は決してハッピーエンドではない。最後の最後で、私たちは驚かされる。これは私たちの身の上にも起こりうる恐怖である。そして、ひとはなかなか思い込みや過去の失敗を帳消しにはできず、心のしこりはずっと残り続ける。
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