『私とは何か――「個人」から「分人」へ』(平野啓一郎著) 「個人」から「分人」という概念に移行するだけで、もっと気楽に生きられるかもしれない。
"individual"とは、「これ以上は分けれらないもの」、社会を細部に分けて分けていって、これ以上分けられないものとして「個人」という考え方が成り立つ。しかし、「個人」とは確固とし普遍的に存在し続けるものではなく、それは変化し続けるし、環境によって様々に変化する。
平野さんは、「個人」という概念ではなく、「分人」という概念を提案する。「本当の自分」という唯一普遍なものなど存在せず、 対人関係ごとに見せる複数の自分はすべて「本当の自分」であり、対人関係ごとに見せる複数の自分の構成比率によって、個性というものが決定する。そして、その構成比率も唯一普遍であることはありえないので、個性というものも移り変わっていくものである。
日本でも戦後、最近ではゆとり教育とかの影響で、「自分らしく生きる」ということをみんなが勧めてきた。「本当の自分」がどこかにいるはずで、それを探し出すという「自分探し」というものが当たり前のように言われるようになった。そして、その「自分探し」の旅の中で、「本当の自分」と今の自分との乖離、「自分らしく生きる」ことと社会との軋轢に若者は苦しめ続けさせられ、疲労しているのではないか。20代のひとたちに所謂エナジードリングが人気だと言うけれど、そもそもそういうものを飲んでまで頑張らないといけないような状況はそもそも間違っている。
「個人」という概念から「分人」という概念に移行するだけで、若者はもっと気楽に生きることができるようになるんじゃないかなあ。
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