『地域を豊かにする働き方: 被災地復興から見えてきたこと』(関満博著) 地域に根付いた企業の小さな「やりましょう」が地域と復興を支えている。
この本は、東日本大震災によって甚大な被害を受けた地域をクローズアップして、その地域で企業がどのようにして立ち直り、またどういう役割を果たしているかを語っている。
日本の企業はお客様のもの、従業員のものとして発展を遂げてきたが、グローバリゼーションの流れの中で、起業は株主のもの、と言われるようになり、株主のために売上を伸ばすだとか利益を出す、ということが公然と言われるようになってきた。そして、株主のための企業は、これ以上円高が進むと海外に移転するだとか、原子力発電所を再稼働しないと海外に移転するだとか、消費税を上げて法人税を減じないと海外に移転するだとか、政府を脅すようになっている。グローバルな企業にとっては、日本の国益だとか国民の生活は二の次で、株主のために売上を伸ばし利益を上げることが至上命令となっている。
しかし、一方で、この本で取り上げられている企業、それらは決して大きな企業ではないけれども、地域に根付いた企業である。復興のためにまず取り組むべきは「雇用の創出」である。震災によって失われた雇用を取り戻す=地域のひとたちの暮らしを支えるメドを立たせることがその第一歩のはずだが、それを取り組んでいるのは、まさに地域に根付いた企業である。株主という目に見えないひとのためではなく、目の前にいる地域のひとの働き場を確保し、目の前にいる地域のお客様に必要なものを届ける、そんな企業の貢献は大きい。
よく、某通信事業会社の社長さんの「やりましょう」がネットではクローズアップされているが、地域の現場では小さな「やりましょう」が私たちが知りうる以上に多くつぶやかれているに違いない。そんな小さな「やりましょう」が連携することでより大きな「やりましょう」につながる可能性もある。株主のためにある企業ではなく、地域に根付く企業こそ、日本の国益や国民の生活を支える企業ではないか。何かと海外移転を口にする大企業の言いなりの政策を進めるよりも、こういう企業を育てる政策をとることの方がずっと地域のため、日本のためになるのではないだろうか。
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