『ドーン』(平野啓一郎著)著者が提唱する「分人」(dividual)を小説として描いた作品。
人類で初めて火星に降り立った宇宙飛行士の中に、日本人の佐野明日人がいた。宇宙船「ドーン」での2年半の生活の中ではある事件が起きており、それがアメリカの大統領選挙とからんで、世界を揺るがす事件へと発展していく。
著者の平野啓一郎さんは、「個人」(individual)に対する概念として「分人」(dividual)を提唱しているが、それを小説として描いた作品。一方で、この小説の世界では、「散影」という誰がどこで何をしているか、が他人からアクセスできるシステムが張り巡らされている。「分人」を総合したものが自分というものになるのだろうか、よくわからない。
この物語では、アメリカが政治が不安定な地域に介入した戦争についても語られる。貧しい移民の若者たちが、志願して兵士となり、戦死してアメリカ人としてアーリントン墓地に埋められることを望んでいる状況を踏まえて、主人公はこのように言う。
「生まれながらにしてアメリカ人ばっかりの国だったら、こんなにうるさく愛国心、愛国心って言わないと思う。」
今、日本の政治家は、愛国心、愛国心、ってうるさく言っていますが、日本人って、生まれながらにして日本人じゃないのかも、と思ったりもしました。そして、私は兵隊にとられて九段の門をくぐって祀られるなんてまっぴらごめんです。
でも、私は村上龍や内田樹ほどではないかもしれませんが、自分は愛国者だと思っていますけどね。
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