『「しがらみ」を科学する: 高校生からの社会心理学入門』(山岸俊男著) 「社会に出るのが何となく不安だ。」と感じている高校生に、社会とは何か教える本。
「社会に出るのが何となく不安だ。」と感じている高校生に、社会は何かを教える本。日本における社会とは、「世間」のことであり、「世間」は自由であるはずの私たちの心が自らの行動を制約してしまう「しがらみ」のことだと著者は言う。そして、「しがらみ」は私たちに私たちの意思とは反する行動をとらせる。では、どうすればそういう「しがらみ」に囚われずに自由に生きることができるのか、をこの本は考えさせようとしている。
ジントニックのクイズ、予言の自己実現、クジャクのハネ、ぐるぐる巻きの赤ちゃんといった事例から、社会がいかに「しがらみ」によってがんじがらめになっているかをこの本は解き明かしている。事例が面白く、読み応えがある。
そして、そういう「しがらみ」から逃れるためには、「世間」ではなく「社会」を生きよう、と著者は言う。「社会」とは”契約”によって個人と結び付くものであり、”契約”を守っている限りにおいて自分は自由に振る舞って良い、そんな「社会」を生きよう、と著者は言う。
”契約”による社会とは自分がその”契約”を守ることによって、その対価・代償を求める社会でもある。そして、契約を守っているのだから、当然、その対価・代償を自分が得ることができるはずだ、その対価・代償を自分が得ることができないのはおかしい、という異議申し立てをできる社会である。今の若者が社会に出るのが何となく不安だと感じるのは、「しがらみ」だらけの社会が生き難いと感じているのではなく、「自分が得られるべき対価・代償が得られない」という不安や不満があるからではないだろうか。その不安や不満の根底には、若者たちが社会は”契約”によって成り立つべきだというように社会に対して要求していて、現実にはそのようになっていないからだ。つまり著者に言われるまでもなく、若者は社会は”契約”に基づくべきと要求していて、その要求が通らないと感じているから、社会に出るのが何となく不安、という思いを抱えているのではないだろうか。
内容は面白いのだけれど、問題の立て方が違うのではないか、と私は思った。
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