『家族のゆくえ』(吉本隆明著) 太宰治は「家族の幸福は諸悪のもと」と言ったけれど、「家族」の問題って一体なんなんだろう。
吉本隆明さんは、青春期の初めの頃、太宰治の「家族の幸福は諸悪のもと」という言葉に感銘を受けたという。この本は、「家族」というものにどう向き合い、維持していけばよいか、ということに論点を絞っている。吉本さんの持論でいけば、「対幻想論」の課題にあたる部分(だそうです)。
少子化が日本の問題として叫ばれて久しいが、問題は、出生率の低さだけにとどまらず、「子供を産みたくない・育てたくない」という親から子供が生まれてくることが、もっと大きな問題であると吉本さんは言う。「子供を産みたくない・育てたくない」という親の思いは、子供に伝播する。そうして、親の愛情を十分に受けることができなかった子供は、問題をかかえることになる。その問題とは「自分で自分を尊重できない」ということで、それは、芸術や文学、音楽などで癒すことができるのだけれど(「自己慰安」)、そういう手段を持たないまま子供が育っていくことに、吉本さんが懸念をいだかれている。
また、同性愛についても触れ、フーコーの言葉をひいて「『家族』という中間項をもたない。それが同性愛者の課題だ。」と述べている。個人は、「個人としての個人」「家族の中の個人」「社会の中の個人」という3つの側面を持つが、同性愛者は、「家族の中の個人」を持たない。
「家族」というものあり方が変わってきて、通説やこれまでのやり方が通じなくなってきている。当たり前のような「家族」というものにちゃんと向き合ってひとりひとりが考えていかなくてはならない時代になっているということなのだろう。
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