『あるキング』(伊坂幸太郎著) 「運命」とは自分の人生とは関係ないところからやってきて、そして去っていくものなのかも知れない。
伊坂幸太郎さんの作品の中では異質と言われる作品。文庫になってかなり加筆されたようだが、私は連載や単行本を読んだことがないのでわからない。
弱小地方球団・仙醍キングスの熱烈なファンである平凡な両親のもとに、山田王求は生まれた。“王が求め、王に求められる”ようにと名づけられた一人の少年は、野球の才能が飛び抜けていた。彼の両親は、彼を仙醍キングスの「王」にすべく、彼を育てる。
「王」となるべく生まれ、「王」となるべく育てられた子供は、そのまま「王」として君臨する。しかし、「王」はその座を妬み、怨むものたちによって、その座を追われるのが、シェイクスピアが語るところでもある。すなわち、「王」となるべく生まれ、「王」となるべく育てられることも運命であるならば、「王」は殺されるのが運命でもある。
そういう「運命」によって語られる物語は、生まれては終わり、1つの物語が終われば新しい物語が生まれる。そう考えると、私たちの一生というものは「運命」というものが予め定められているのではなく、「運命」とは、自分の人生と関係ないところから、「外付け」で、それを「運命」と呼ばれるようにできているのではないか、と思える。そう考えると、軽々しく「運命」などという言葉を使うのも、なんだか馬鹿らしく思えてくるようでもある。
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