『科学は大災害を予測できるか』(フロリン・ディアク著,村井章子訳)科学で予測できないところは、自分でその予兆を感知しないと。
2012年10月22日、イタリアの裁判所は、「2009年のラクイラ大地震を予知できず309人を死亡させた」とし、国立災難予測・対策委員会所属の科学者6人と公務員1人に対し、過失致死容疑を適用して懲役6年を言い渡した。「科学は大災害を予測できるか」というこの本のタイトルがまさに問われる事件だった。
この本では、「地震」や「津波」だけでなく、小惑星の衝突や株価、パンデミック等、幅広い分野について、予測が可能なのか、科学がどういう取り組みをしてきたか、を数式を使わず、わかりやすく記述されている。いわゆる複雑系の分野では予測はできないとも言われるが、諦めず、不断・不屈の取り組みがまさに科学を支えているとも言える。
単行本が刊行されたときには日本ではこれらの予知に関する研究が進んでおり、周知のこととして、日本語版には「地震」と「津波」の章が削除されていたそうだ。しかし、知っているつもりが一番悪い。科学で予測できないところは、自分でその予兆を感知し、素早く逃げなければ自分の身を守れない。
地震や津波に限らず、科学が進歩すると次に何が起こるか、という予測を立てることがだんだんと可能になってきた。しかし、その予測は絶対ではないし、様々な要素が予期せぬ影響を与え、予測を狂わせることもあるだろう。絶対ではないからといって、その動きを止めることはしてはならないと思うし、それに不作為や悪意があると認定されない限りは予測が外れたからといって科学者に罪を問うこともしてはいけないのではないか、とも思う。
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