『心がおぼつかない夜に』(酒井若菜著) 「生きていることに許可はいらないよ。」心がおぼつかない夜にはそんな言葉が心にしみる。
女優・タレントの酒井若菜さんのブログ『ネオン堂』の記事をもとにしたエッセイ集。酒井若菜さんはどうも相談を持ちかけられやすい性格のようで、このブログの悩みをかかえる読者にとって駆け込み寺のような趣がある。酒井若菜さんはそんな読者の悩みのひとつひとつに答えられないことにもどかしさを感じながらも、自分のできるギリギリのところまで、その思いを受け止めようと、まさに奮闘している。決して熱くならず、自分の分をわきまえて、穏やかに語る言葉のひとつひとつに彼女のそんな思いが伝わってくる。
生きていても良いのだろうか、と悩む読者に酒井若菜さんはこんな言葉をかける。
「生きていることに許可はいらないよ。
人はいくら努力しても人以上にはなれないけれど、生まれてきた時点で、人以下にも決してなりません。」
人は人以外にはなりえない、人は人でしかない。この無限の宇宙の中で、そして無限の時間の中で、人はちっぽけな存在でしかない。そんなちっぽけな人と人とが出会うことはまさに奇跡。例えそれが良い出会いでも、そうでない出会いでも。良い出会いはそれを育んでいけばよいし、そうでない出会いであればなるべく避けて通るようにすればよい。
誰にだって心がおぼつかない夜はある。でも、止まない雨がないように、明けない夜はない。そして、人は自分の力で雨を降りやますことも、太陽を昇られることもできはしない。それは人がどうにかできるものではなく、お天道様と時間に身を委ねるしかない。
これはそんなときに読んでほしい本です。
« 『僕は長い昼と長い夜を過ごす』(小路幸也著) ひとは心ならずもひとの恨みを買うこともあるけれども、逆に善意を返してもらえることもある。 | トップページ | 『ムダヅモ無き改革 8』(大和田秀樹著) 鳩山ユキヲのちゃぶだい返しに翻弄され、戦意を喪失するタイゾーの姿は、まさに民主党政権に翻弄された国民の姿。 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 【安吾を読む】『木枯の酒倉から 聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話』「俺の行く道はいつも茨だ。茨だけれど愉快なんだ。」(2014.07.11)
- 『金融緩和の罠』(藻谷浩介・河野龍太郎・小野善康著、萱野稔人編)金融緩和より雇用を増やすことこそがデフレ脱却の道。(2014.07.10)
- 『ひとを“嫌う”ということ』(中島義道著)ひとを「嫌う」ということを自分の人生を豊かにする素材として活用すべき。(2014.07.09)
- 【安吾を読む】『街はふるさと』「ウガイをしたり、手を洗ったりして、忘れられないようなことは、私たちの生活にはないのです。」(2014.07.08)
- 『天災と日本人 寺田寅彦随筆選』(寺田寅彦著,山折哲雄編)地震や津波といった天災からこの国を守ることこそが「国防」である。(2014.07.04)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント