『サロメ』(オスカー・ワイルド著,平野啓一郎翻訳) 古典は「博物館に入れるのではなく」「面白いものに蓋をせず」楽しんでいくべき
宮本亜門による舞台化の原作。平野啓一郎が新しく翻訳したもの。
平野啓一郎の新訳もすばらしいが、本題よりも解説の方が長い。オスカー・ワイルドというまさに世紀末を体現したような作家や『サロメ』という作品の背景について理解を深めるのに役立つだろう。
宮本亜門が解説で、古典を「博物館に入れるのではなく」「面白いものに蓋をせず」楽しんでいくべきというのは、この舞台を観た者の実感としてよく判った。私も、かっては「自分が生まれる前にすでにこの世にいなかった作家の作品は読まない」というこだわりを持っていたのだが、坂口安吾を読み(もっともアンゴは古典ではないが)、橋本治のとんでもない源氏物語を読み、考え方が変わってきた。古典が読み継がれるのは、それが現代に通じるものがあるからだ。今の世に生きるひとの実感に訴えるものがあるからだ。
平野啓一郎新訳、宮本亜門演出の『サロメ』はこれまでの妖艶な女サロメを覆して、まだ恋をも知らぬ処女のサロメを描いている。求めるものはすべて手に入るということに何も疑いをもつことなく育ってきたサロメが初めて出会う他者、初めて味わう拒絶、それに対する免疫力のなさこそが、残虐さに結実する。
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