『MOMENT』(本多孝好著) 自分の好きなひとには生きていてほしいと思う。そんな願いが込められた作品。
ある病院で、死ぬ前にひとつ願いが叶えてくれる仕事人がいる、という噂がある。病院で掃除のバイトをする大学生の主人公は、ある末期患者の願いを叶えた事から、様々な患者たちの最後の願いが寄せられるようになる。主人公は最初の善意により、自分の身の丈を越えた報酬を得てしまったがために、その負債を返すために、患者たちの願いを叶えようとしていく。ひとは死ぬ瞬間に何を思うのか。誰にでもやり残したこと、叶えたかったことの1つや2つはあるだろう。それは愛に満ちていることだとは限らない。それは悪意に満ちているものもあれば、深い悲しみに満ちているものもある。そういうものと、主人公は向き合わざるを得なくなる。
そして、もしかすると、最後の望みとは、「もっと生きたい」とは全く逆のことであるかもしれない。私たちはそれを忘れがちだが、そういう想いだってある。それを叶えるのを尊厳ある死と言う見方も、もちろんあるかもしれない。しかし、自分の好きなひとには生きていてほしいと思う。そんな願いが込められた作品でもある。
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