演劇『THE BEE』Japanese Version ジャパンツアー大阪公演 この芝居への一番の賛辞は、「宮沢りえ、綺麗だったね。」と語りあいながら劇場を後にすること。
『THE BEE』Japanese Version ジャパンツアー
大阪公演
2012年5月25日(金)~6月3日(日)
大阪ビジネスパーク円形ホール
演出:野田秀樹
出演:宮沢りえ/池田成志/近藤良平/野田秀樹
English Versionを観たので、宮沢りえ見たさにJapanese Versionも観たいと思っていたのですが、東京公演のチケットが取れず、大阪まで来てしまいました。
恒例のカンバンをパシャリ↓
OBP(大阪ビジネスパーク)は以前、仕事で来たことがあったのですが、ツインタワーのその奥に演劇を上演できる場所があるとは知りませんでした。地上にちょこっとドームが顔を出しているので、目立たないですね。↓
ジャパンツアーでは、パンフレットを販売していました。その冒頭で、野田秀樹が、この劇を「9.11」や「暴力の連鎖」という文脈で語ってくれるな、と釘をさしています。しかし、演出家の意に反してこの劇が「9.11」や「暴力の連鎖」という文脈で語られるのであれば、それは演出家の力不足でしかありません。演劇を観た人がどう感じるかは、観た人の自由でしょう。節度はわきまえますが、私は自由に感想を書かせてもらいますよ。
パンフレットでは、野田秀樹はこの芝居ほど「小道具」が重要と言っている。この芝居はで、指が切り落とされるのを「鉛筆が折れる音」で表現している。そして、鉛筆は「ペキッ!」と小気味よい音を立てて折れるのだ。それが残忍な行為であるのをあざ笑うかのような小気味よさ。
日本版では野田秀樹、英語版ではキャサリン・ハンターが演じたかっては平凡なサラリーマン。おそらく、彼はこれまで人を殴ったこともなかったのではないだろうか。それだけに、暴力によって状況が一変させることができること、暴力の前に他人が自分に屈服し、自分が状況を支配できている、まさにこの世の王になったような高揚感、快感というべきものは、初めての暴力が発動した後の狂気に満ちた乱舞で表現される。その勝者のダンスは演者としてはキャサリン・ハンターの達者ぶりが勝る。小道具という点では、銃もまた重要な意味を持つ。
英語版では、壁が鏡張りであったが、日本語版では、壁が紙でできている。昔、イギリス人の先生に英語を習っていたとき、その先生に「日本に来る前は、日本人は紙の家に住んでいると聞いていた」と言っていた。この紙の壁は、最後に破かれ、そして、舞台を包む。それは瓦礫の山に見える。そして、瓦礫の下には、この物語の犠牲者たちの死体が埋まっている。野田秀樹は、「3.11」と関連して語るな、というだろうが、そういうことを想起させる演出をしているのだから、仕方ない。
この芝居は、前半は動きがあって面白い。舞台上で、警官から記者へ、記者から警官に早変わりするのは観ているだけで面白い。観客からも笑いがもれる。しかし、一発の銃声により、客席から笑い声が消える。暴力は、舞台の上だけでなく、客席をも支配する。そして、暴力が日常化し、単調な芝居が続く。英語版でキャサリン・ハンターが細部にこそ神が宿ると言わんかなのような厳かさでその日常の繰り返しを演じていたが、日本語版で野田秀樹はその繰り返しを、うんざりするかのようにぞんざいに演じている。1つの作品でも演者によって違う物語に見える。
英語版で野田秀樹が演じた脱獄犯の妻を、日本語版では宮沢りえが演じる。前半、宮沢りえは男装し警官や記者を演じているが、一変して妻であり母である、香り立つような女として舞台に現れる。恥ずかしながら、宮沢りえの太ももに目が釘付けになりました。それからは、野田秀樹がどんなにはしゃいだ芝居をしていても、ずっと舞台の上の宮沢りえを追ってしまう。この芝居への一番の賛辞は、「宮沢りえ、綺麗だったね。」と語りあいながら劇場を後にことかもしれない。
↓THE BEE CM
大阪では、何度も何度もカーテンコールが繰り返された。東京で演劇を見ても、カーテンコールは1回か2回。会場が明るくなると観客は拍手を止めてそそくさと席を立つが、大阪はそんな淡白なことはしませんね。もう1回、もう1回、と役者が勘弁してくれ、と言うまで拍手をやめません。
カーテンコールは儀式ではなく、役者に対する賛辞です。もう拍手しても出てこないだろうと思って止めるものではなく、素晴らしい芝居を見せてもらったら、役者が出てこようがこまいが、思う存分に拍手しようと思いました。最後にそのことを再認識できて、大阪まで来て良かったと思いました。
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