『オブ・ザ・ベースボール』(円城塔著) 不条理はどこまで行っても不条理である、ということなのだろう。
円城塔さんの作品を初めて読んだ。「もらっといてやる」の方ばかりが取り上げられたが、こちらも芥川賞作家である。
表題作「オブ・ザ・ベースボール」は1年に1度、空から人が降ってくるという不思議な町・ファウルズの、レスキューチームの一員となったひとの物語。彼らに支給されるのは何故か、野球のユニフォームと野球のバット。空から降ってくるひとを救助するのではなく、どうも打ち返すのが仕事のようだ。そして、その打率は今のところ、0割0分0厘。そして、この町に奇跡が起こる???
何故人が降ってくるのか、哲学的な、科学的な解明が試みられるが、人が降ってくるという不条理を解き明かすことができるはずがなく。不条理はどこまで行っても不条理である、ということなのだろう。
「つぎの著者につづく」は、久々に何だかよくわからない作品。とどのつまり、文学とは模倣と引用である、と言いたいのだろうか。しかし、著者がいろいろな作家の本を読んでいることはわかったが、模倣元や引用元がさっぱりわからないので、結局、何が何だかさっぱりわからない。この作家の目指すものは、「わかる読者にはわかる」作品なのだろうか。そういえば、やたらと漢字が多い。普通はひらがなで表記される言葉もわざわざ漢字で書いている。そして、振り仮名をふっていない。著者は「わかる読者だけわかれば良い」と思っているのだろう。
どうも、私は著者が想定している読者ではないようだ。
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