『後白河法皇』(河合敦著) 後白河法皇という永遠ののび太は、何歳になってもドラえもんを求め続けていたのかもしれない。
今年の大河ドラマが平清盛なので、平清盛ブームのようになっているが、後白河法皇という人物は日本史の中でも5本の指に入るくらい、わけのわからない人物である。政治が摂関家から院政に移り、そして武士の世に変換しようとしていた激動の時代にあって、本来であれば天皇になれそうになかった人物が天皇になり、その後、その激動の時代を巧みに生き抜く。賢こかったのか、愚かだったのか、これほど評価が定まらない人物も珍しい。その奇妙な行動から、アスペルガー症候群という発達障害だったのではないか、という説もあるそうだが、当時のひとたちにとっても、わけのわからない人物だったのだろう。
この本で面白かったのは、後白河法皇=のび太、平清盛=ドラえもんという例え。自分の望みを何でも叶えてくれる平清盛は後白河法皇にとってまさに四次元ポケットを持ったドラえもん。しかし、のび太とドラえもんの蜜月は続かず、言うことを聞いてくれないドラえもんに裏切られたと思ったのび太はその恨みを忘れず、ドラえもんの死後にドラえもんの一族に復讐する、というのが著者の立てた物語。
後白河法皇は京の民を守るために、その時その時にいろいろな勢力と手を結んだ、というのが著者の見解のようだが、その当時の天皇や法皇が下々の民の暮らしを考えていたというのは、いくら変わり者の後白河法皇としても無理があるような気がする。むしろ、後白河法皇というひとは自分の保身のためにその時その時で自分を守ってくれる勢力と手を結んでいった、と単純に説明した方がしっくりくる。自分の保身のためなら、なんだってする。平清盛というドラえもんが使えなくなったら、新しいドラえもんと手を結ぶ。新しいドラえもんは木曽義仲でも源義経でも源頼朝でも誰だって良い。ひとは普通、成長するとドラえもんがいなくなっても平気になっていくものだが、後白河法皇という永遠ののび太は死ぬまでドラえもんを求め続けていたのかもしれない。
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