『脳は平気で嘘をつく 「嘘」と「誤解」の心理学入門』(植木理恵著) 表情や仕種で嘘を見抜く研究をするよりも、今目の前にいるひとと向き合ってみよう。
著者の植木理恵さんは『ホンマでっか?!TV』(フジテレビ系)などでもお馴染みの心理学者、臨床心理士。最近、居酒屋トークで「俺は表情や仕種で嘘が見抜ける」と豪語するひとがいて、ホンマでっか?!と思って読んでみた。
面白いと思ったのは、訓練すれば上半身はばれない嘘がつけるようになるが、下半身は嘘がつけない、ということ。嘘をつこうと上半身は意識がいくが、下半身には意識がいきにくい。正座して嘘をつこうとすると言葉がつまったり、言い淀んだりするそうだ。そういえば、子どもの頃、説教されるときはよく正座させられていました。子どもにとって正座は体罰のようなものでしたが、目を見て話せ、と言うよりも、正座して話をさせた方が、本音を聴きだせたり、素直に話をさせるのには良いようです。
また、叱られたとき、女性は心からの謝罪を求め、男性は現状の改善を求める、というのも面白い。ブレーンストーミングという手法が日本の文化として定着しないだろう、という意見も、ビジネスの現場にいる立場の実感から、まさにその通り。小さな成功をコツコツと積み上げていく方が大きな成功につながる、というのも賛同できる。
さて、「俺は表情や仕種で嘘が見抜ける」は、ホンマでっか?! そんなわけないじゃん。ひとはその時々で気分も変われば考え方もかわる。「俺は表情や仕種で嘘が見抜ける」と豪語して憚らないのは、ひととちゃんと向き合わずに、自分の決めつけだけで判断しているだけかもしれない。表情や仕種で嘘を見抜く研究をするよりも、今目の前にいるひとと向き合ってみることの方がずっと大切なことだろう。
心理学者の先生の本を読んで、心理学を過信するな、という結論もどうかと思うが、ひとはそんなに判り易くはない。だからこそ心理学という学問があるのだろうし、心理学というのは永遠にひとという謎と向き合っていかなくてはならない学問なのだろう。
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