『自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来』(グナル・ハインゾーン著) 「戦いは数だよ、兄貴」(ドズル・ザビ少将)という言葉はあながちハズレではない。
イスラム原理主義者の若者たちが、体に爆弾を巻きつけて自爆するのは何故か。それは彼らがその命を犠牲にしてまで神のために闘うように教化されているからなのか。否。テロが起きる本当の原因は、人口問題にある、というのがこの本である。人口ピラミッドで若い世代が突出して膨らんでいるとき、これを「ユースバルジ」と呼ぶ。そして「ユースバルジ」が臨界を超えたとき、その国には内戦や虐殺が起こる危険が高まり、そして戦争が起こる危険が高まる。それら「ユースバルジ」たちにしばるべき地位や居場所が用意されていないからで、その地位を奪い取るために若者たちは命をかけることを辞さないし、また子どもの1人や2人が死んだとしても構わない社会構造になっている。
人口に対する若者の割合が小さいと、若者は貴重な資源であり、その資源を失うことは国力の損失・低下を招く社会では若者を簡単に死なせることができないが、「ユースバルジ」を抱える国はそうではない。「ユースバルジ」がそのまま戦闘員になれば、一人っ子、二人っ子しかいない国に対し、数的優位に戦争を仕掛けることができる。まさに、「戦いは数だよ、兄貴」(ドズル・ザビ少将)の言葉が成り立つのである。
日本の出生率は、1.3程度である。これだと、「ユースバルジ」は将来にわたって存在しなくなる。つまりは自爆する若者たちは将来にわたって存在せず、将来にわたって安定した社会が約束されている、とも言える。しかし、安定とはつまり緩やかな衰退である。子どもこそ、国力なのだから。
日本には「ユースバルジ」はいないかもしれないが、若者が不満を抱えていないとは言い難い。就職すら困難な状況の彼らはいつ爆発するかわからない。ただ、人口に占める若者の割合が低いため、それが抑制されているだけである。そして、それは決して無視してはいけない。よくカツマーとか言われる若者たちは「年寄りたちは既得権にしがみ付いている。それを自分たちに寄こせ」と要求する。しかし、地位などは禅譲されるものではない、奪い取るものだ。そのためには、まず自分たちがどれだけできるか、を年寄りたちに示さなくてはならない。それをせずに、寄こせ、寄こせ、では子どもの駄々と変わらない。
それと同時に、年寄りたちは若者たちに実力をつけさせる、ということにもっと注力すべきだろう。それによって自分の既得権が脅かされるかもしれないが、若者が力をつけない限り、日本の将来は決して明るくはならないし、年寄りも実力を付けた若者にまだまだ負けない気概もまた日本の将来を明るくするだろう。世代間で切磋琢磨できる社会が日本の理想ではないだろうか。
ともあれ、社会問題を考えるとき、人口という視点が重要であると、この本は教えてくれる。
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