『聞く力―心をひらく35のヒント』(阿川佐和子著) 「このひとなら私の話を聞いてくれそうだ」と思えるひとは、相手にも自分の話を聞いてもらえる。
この本は新書版だが、学術書ではなくエッセイのように読むのが良いだろう。著者の阿川さんはテレビ番組の司会や週刊誌の対談記事のインタビュアーとして活躍してされている。ひとから話を聞きだすコツや司会をスムーズに進めるコツなど、楽しみながら読み進めるのが良いだろう。
かくいう私もこうやってブログなぞをやっているので、ひとのことは言えないのだが、ひとは例えどんなに無口なひとでも、自分のことを語りたがるものだ。ただ、語るためには自分の話を「聞いてくれるひと」が必要だ。最近はツイッターというつぶやきメディアが繁盛しているようだが、それでも自分のつぶやきを誰かに聞いてほしい、反応して欲しいからつぶやくのだろう。
しかし、「聞いてくれるひと」は誰でも良いというわけでもなさそうだ。誰がお前なんかに本音を見せるものか、という頑なな思いは誰もが抱いているだろう。そういう相手にはやっぱり自分のことを話したくはない。私たちは話を聞いてくれる相手を選んでいるのだ。
テレビ番組の司会や雑誌のインタビューは、いかに相手の話を聞きだすか、そのためには相手に気持ち良く話してもらい、そしてテレビや雑誌向けの面白い・興味深い話を聞きだせるか、がポイントになってくる。阿川さんは最初からそういうスキルをもっていたのではなく、失敗を繰り返し、試行錯誤をしながら、それを身につけていったことがこの本からもわかる。
私たちの生活もそうだろう。ひととつきあう、ということは失敗の繰り返し、試行錯誤の繰り返しである。そして、「このひとなら私の話を聞いてくれそうだ」「このひとなら私の話をしても良いな」と思えるひとはかなりトクである。だって、そういうひとは相手にも「自分の話を聞いてもらえる」のだから。そういう関係性のことをコミュニケーションと呼ぶのだろう。
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