『彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)』(石持浅海著) 「自分には関係ない」という立ち位置で事件を見ている賢者ほど厄介なものはない。
『扉は閉ざされたまま』に始まって、いつの間にか、「碓氷優佳シリーズ」になってしまったシリーズ3作目。
碓氷優佳がたまたま参加した箱根旅行で、殺人事件が起こる。中条夏子は、かつての同僚で親友だった黒羽姫乃を刺殺。証拠を隠滅し、彼女は来るべき警察との対決に備えようとするが、その前に思わぬ敵、碓氷優佳が現れる。
「被害者のことを最も考えているのは、犯人」という著者の言葉にあるように、犯人は殺す前も、殺した後も被害者のことを意識しないわけにはいかなくなる。そして、この事件は、被害者もまた犯人のことを最も考えていた。殺したはずの被害者が、犯人を追い詰めていく。
碓氷優佳の凄いところは、事件から「超越」した視線でものごとを観ていることである。彼女は最初からすべてお見通しであったにも関わらず、「自分には関係ない」としてこの事件を見ている。彼女にとって、黒羽姫乃という女性が殺されたことにも、犯人である中条夏子がどういう結末を迎えようが、「自分には関係ない」。彼女たちに何が起きたのか、彼女たちの勝負にも葛藤にも全く関心がない。無関心な賢者ほど厄介なものはない。
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