『タイムスリップ聖徳太子』 (鯨統一郎著) 「和をもって尊しとなす」という言葉が、また違った意味に聞こえるかも?
森鴎外がコギャルの蠢く渋谷にタイムスリップする、という斬新な展開から始まった「タイムスリップ」シリーズ。しかし、今作ではタイムスリップが夢落ち、というタイムスリップにすらなっていない。このシリーズをこれ以上維持するのは難しいだろう。
ただ、聖徳太子の出自についてのこの物語の見解は面白い。私は聖徳太子はいなかった、という説を支持しているが、著者は聖徳太子がいたとしたらこういう出自だったのではないか、ということを示している。それは、厩戸だから馬子なのか、馬子だから厩戸なのか、この逆転は面白い。
また、信じるものの名前が違うだけで、神は神、という見方も面白い。これは、無宗教というより、宗教に寛大な日本人ならではの見方だろう。自分の信じる唯一つの神しか認めないひとたちにとっては受け入れがたいのかもしれないが、宗教に対する寛大さは日本人の美徳と言って良いかもしれない。
そう考えると、「和をもって尊しとなす」という言葉も、また違った意味に聞こえるかもしれない。
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