『おまえさん(下)』(宮部みゆき著) 江戸という街のひととひととの関係がなんとも広く、濃いものか
「王疹膏」という良く効く痒み止めの薬を売り出していた瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺された事件は、天才的なひらめきをもつ美少年・弓之助による謎解きにより真相が明かされる。しかし、下手人は逃亡。平四郎たちが下手人にいかに辿り着いたか、が下巻の醍醐味である。江戸という街のひととひととの関係がなんとも広く、濃いものか。
「人は何にでもなれる。(中略)それでも、所詮は人なんだ。人でいるのが、いちばん似合いだ。」最近の宮部みゆきは、鬼や悪魔になったひとたちを描き続けた。『理由』『模倣犯』に続く作品群で、鬼や悪魔になったひとたちと、それにより不条理な目にあうひとたちの悲劇を描き続けた。しかし、宮部みゆきの持ち味は、初期の作品群のように、やっぱり、ひとをひととして描くことにあると私は思う。そして、それが現代ものではなく、江戸ものにしか描かれないことは、なんとも言えないやるせなさを感じてしまう。
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