『昭和歌謡大全集』(村上龍著) 日常とは、サヴァイバルである。生きる、ということは生き延びる、ということだ
村上龍の最高傑作のひとつ。
夜な夜なカラオケパーティー 孤独なコンピュータオタクの若者6人グループと、名前がみんなミドリのおばさんグループが血で血を洗う抗争を繰り広げる様を、昭和を代表する歌謡曲にのせて描かれる。
最初の些細なキッカケが殺人という結果を生み、そこから復讐の連鎖が始まる。それは衝動的に繰り広げられるのではなく、ひとを殺す、という目的のために緻密な計画を練り、周到な準備をし、武器を手に入れ、誰にもばれないようにそれを実行に移す。そして、ひとを殺す手段は段々とエスカレートしていき、ひとりづつ殺していた方法が、複数まとめて殺す方法になり、そしてついには彼らの抗争には無関係なひとびとを巻き込んで、街ごとバクダンで吹き飛ばす、という手段に及んでいく。
それは、人類が戦争というものに突入していく過程と似ている。相手を滅するまで留まることができなくなり、そして、それを考え、実行していくことが楽しくなっていく。彼ら、彼女たちは、殺し合いをしていくことで、まるで生きがいを手に入れたかのようである。それは、個人レベルから国家レベルまで変わらないのかもしれない。
日常とは、サヴァイバルである。生きる、ということは生き延びる、ということだ。
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