『美しく怒れ』(岡本太郎著) ルールは守るべきものかもしれないが、従うべきものではない。ルールを疑え。ルールを変えろ
冒頭から、岡本太郎は怒っている。
「言いたいことは、上には言えない。それを下の者にぶつけ、大義名分のように、目ぐじらたてて怒鳴ったりする。この国で一般に通用している怒りの型だが、それはただの腹いせ。憤りではない。」
今はそれほどでもないだろうが、高度成長の頃は、この手の怒りが蔓延していたのだろう。怒りにも、美しい怒りと、醜い怒りがある。この国に蔓延しているのは、醜い怒りであると、岡本太郎は怒っているのである。
岡本太郎の怒りは常人の理解を遥かに超えている。電車に乗るのに何故切符を買わなくてはならないのだ、何故狭苦しい改札口を通らなければならないのだ、と岡本太郎は怒る。そんなことまで怒っていたら24時間365日常に怒っていなければらななくなる。岡本太郎らしいと言えばそうかもしれないが、自分の周りが岡本太郎みたいな怒りが蔓延してしまったらさぞかし大変だろうなあと思ってしまう。
ただ、岡本太郎の怒りは彼の芸術の原動力であっただろう。そして、岡本太郎の「ルールは守る。でもルールには従わない」というスタンスには納得させられた。ルールは守るべきものかもしれないが、従うべきものではない。ルールを疑え、ルールを変えろ。最近は、ルールに従うことに何の疑問も持たないひとが多すぎる。決められたことを当然のこととしてそのルールの枠の中でせっせとこなすのは得意だけれども、それだけでは「独創性」は生まれない。そして、「独創性」のない仕事は「面白くない」。「面白くない」ことには、私たちはもっと怒ってもよいはずだ。
仕事が面白くない、と愚痴っているひとたちは、今も昔も、美しく怒っていない。日本人は、もっと美しく怒ろう。
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