『生物学的文明論』(本川達雄著) エネルギーを過度に消費することを見直すだけでも、ちょっとだけ生きやすくなるかもしれない。サンゴ礁やなまこなどの生物から学ぶべきことは多い
『生物学的文明論』とは、面白いタイトルだ。生物学といえば進化論で、文明論とどう結び付くのか、興味をそそられた。
著者はNHKの爆笑問題の番組にも登場した「なまこ」の歌の先生。そのときはちょっと変わり者な印象があったが、なかなか変わった視点からものごとを捉えることができる、というのはすごい。
『生物学的文明論』は、まず、サンゴ礁の話から始まる。サンゴ礁=美しい南の海という連想をしてしまうが、サンゴ礁ができる海は豊かな海ではない。むしろ、貧しい海だからこそサンゴ礁ができる。そして、貧しい海であっても生物たちは共生することによって少ない資源を分かち合っている。
この本の面白いところは、生物が、柔らかいもの、丸いもの、湿っているもの、に対し、私たちが文明の恩恵と思っているものは、硬いもの、角ばっているもの、乾いているもの、である、ということだ。生物が生き残っていくために、柔らかい、丸い、湿った、という条件を選択して進化いったのに対し、文明の進化は、硬い、角ばった、乾いたものを要求している。この相反する進化が人間から生物らしさを希薄にしていき、それが生きにくさになっているのではないか、という指摘が生まれる。
また、私たちは、エネルギーを消費することで時間を獲得している、ということだ。より多くの時間を獲得するためにはより多くのエネルギーを消費しなくてはならない。それが文明の進化がもたらした弊害である、という指摘ももっともだと思えてくる。人間は、化石燃料を燃やし続け、原子力という禁断のエネルギーにも手を出してしまった。人間はより速い時間の流れを得ることによりより長く生きるようになったが、そういう生き方が人間そのものが持つ時間を狂わせてしまっている。それを生物本来の時間に戻す、ということは困難かもしれない(人間というのはそういう生物本来の時間を拒絶して進化を遂げてしまったのだから)。でも、エネルギーを過度に消費することを見直すだけでも、ちょっとだけ生きやすくなるかもしれない。サンゴ礁やなまこだけでなく、生物から学ぶべきことは多い。
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