『古代国家はいつ成立したか』(都出比呂志著) 「邪馬台国がどこにあったのか」よりも、日本列島に『国家』がどのように成立したか、を考える方がずっと有益
日本列島に「国家」はいつ、どうやって成立したのか。この本は考古学の立場からそれを解き明かそうとしている。「国家」の定義には様々あるが、社会構造の変化を追っていったときに、「邪馬台国」がその始まりなのか、前方後円墳の時代がそうなのか、それとも律令体制が整った7世紀以降に国家が成立したと言うべきなのか。著者がどのように結論づけたのかは、この本を読んでもらうとして、「日本列島に『国家』はいつ、どうやって成立したのか」という問題は、日本人として頭の片隅にでも置いておいた方が良いと私は思っている。
(ここからしばらくは書評ではなく、私の考えです。)
「建国記念の日」は、暦の上では2月11日だが、何をもって日本という国が建国されたのか、というと実にあいまいである。各国の「建国記念の日」にあたる日を調べてみると、例えば、
アメリカ:7月4日。独立記念日。1776年、イギリスからの独立を宣言した日。
フランス:7月14日。1789年、フランス革命が始まった日。
中国:10月1日。国慶節。1949年、毛沢東が建国を宣言した日。
ドイツ:10月3日。1990年、東西ドイツが統一された日。
日本は、植民地から独立したわけでも、革命を起こしたわけでも、ある主義のもとで国を作ったわけでも、分断された国が1つになったわけでもない。では、何故日本の「建国記念の日」が2月11日かと言うと、この日は、古事記や日本書紀の中で、神武天皇が即位したとされる日だから。そう言われても、いまいちピンとこない。それくらい、日本という国は、その成り立ちがあいまいなまま今日に至っている。
(再び書評に戻ります。)
「日本列島に『国家』はいつ成立したか」。この問いには恐らく明確な答えはこれからもでないだろう。でも、「どうやって」成立したか、という問いに対する解答は、考古学というアプローチが有効だろう。考古学は科学的事実から推論していく学問である。私がよく言う、タンテイ眼が求められる学問であり、
「日本列島に『国家』はどうやって成立したか」をそのタンテイ眼が解明してくれることを望んでいる。
この本には『国家』というものが成立するまでの社会的変化の過程、日本列島に何が起こっていたか、を考古学からアプローチした成果がまとめられており、有効だ。この時代の学問は「邪馬台国がどこにあったのか」に終始しがちだが、それよりも、「日本列島に『国家』はどのように成立したか」といった抜本的な問いかけをする方が、日本人にとっても有益ではないか、と私は思う。
![]() | ![]() | 古代国家はいつ成立したか (岩波新書)
著者:都出 比呂志 |
« MtG: 両面カードって、、、なんだか面倒くさそう | トップページ | 『ストップ!!ひばりくん!コンプリート・エディション 2』(江口寿史作) 「白いワニ」と格闘しながら。でも、この頃が一番ギャグが冴えている »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 【安吾を読む】『木枯の酒倉から 聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話』「俺の行く道はいつも茨だ。茨だけれど愉快なんだ。」(2014.07.11)
- 『金融緩和の罠』(藻谷浩介・河野龍太郎・小野善康著、萱野稔人編)金融緩和より雇用を増やすことこそがデフレ脱却の道。(2014.07.10)
- 『ひとを“嫌う”ということ』(中島義道著)ひとを「嫌う」ということを自分の人生を豊かにする素材として活用すべき。(2014.07.09)
- 【安吾を読む】『街はふるさと』「ウガイをしたり、手を洗ったりして、忘れられないようなことは、私たちの生活にはないのです。」(2014.07.08)
- 『天災と日本人 寺田寅彦随筆選』(寺田寅彦著,山折哲雄編)地震や津波といった天災からこの国を守ることこそが「国防」である。(2014.07.04)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント