『決断できない日本』(ケビン・メア著) ジャイアンのようなアメリカと、のび太のような日本が、いかにしてこれからもトモダチであり続けられるか、ということを考えさせられる本
著者は「沖縄はゆすりの名人」と発言したとして報道され、解任された国務省元日本部長だったひと。つい最近も経済産業大臣が失言したとして辞職させられたが、最近の報道は、その真偽をしっかり確かめることなく、誰かを意図的に引きずり降ろそうとしているように思えてならない。そして、そうして作られた「空気」に、その関係者たちが踊らされている。ネットでのみんなの意見の方が、マスコミの論調よりもずっと冷静で理性的にさえ思える。
それはさておき。まず、著者が「沖縄はゆすりの名人」と発言したかどうかをいったん保留にして、この本は、「アメリカ側から見た『日米同盟』のあり方、という視点で読んでみるのが良いと思う。
3月の津波と原子力発電所の事故で、私が見なおしたものが3つあって、それは、「東北のひとの我慢強さ」と「天皇陛下のお言葉」、そして、「アメリカがトモダチだった」ということだ。日本に駐留しているアメリカ軍は、そうするのが当然のように、東北を助けに行った。もちろん、地元の警察や消防の方もがんばっておられたし、自衛隊もこの国を守るためにまさに戦っていた。アメリカ軍は、自衛隊がいけないところ、離島や孤立集落の救出にヘリを飛ばし、ひとびとを救出し、支援物資を送り続けた。
日本人の中には、「日米同盟と言っているが、アメリカはいざというときに日本を助けないんじゃないか」という疑心暗鬼がある。しかし、アメリカはそうするのが当然、という態度で、アメリカ兵を東北に送った。いざというとき、アメリカはちゃんと日本を助ける、ということを行動で示したのである。同じ時期、日本より西側の大陸にある近隣諸国が、日本の領土を脅かしていたのとは対照的である。この震災で、日本にとって誰が本当のトモダチか、私にはわかってしまった。
メア氏がこの本でたびたび口にするのは、日米同盟が「非対称」であることだ。つまり、アメリカが攻撃されても日本はアメリカを助けるために軍隊を送る責務はないが、日本が攻撃されればアメリカは日本を全力で助ける、ということ。それは日本国憲法第9条によりものだが、アメリカはその憲法を理解したうえで、日米安保条約を結んでいる、とメア氏は言う。
その代わり、それに見合うコストを日本はちゃんと負担すべきだ、ということになるのだが。
そのコストを日本人は「思いやり予算」と呼ぶ。確かに、アメリカ軍を優遇しすぎるのはどうかと思うが、この震災で、アメリカは有事の際には日本を助けることを実際に行動で示してみせた。日本はそれに対してちゃんと感謝の気持ちを伝えるべきだし、それに見合うコストはちゃんと払うべきだろう。
沖縄の米軍基地の問題は、解決すべき問題であるが、地政学的にアメリカが沖縄を手放すことはありえないだろう。そうなると、米軍にはなるべく住民の安全を脅かさない場所に米軍基地を持ってもらうしかないのではないだろうか。
テレビで普天間飛行場を離発着する戦闘機やヘリコプターが小学校の頭上を爆音を響かせながら飛ぶ映像を私たちは何度も見ている。マスコミの論調は、「子供たちを危険にさらすような場所に米軍基地があることが問題だ」ということになるのだが、私が思っていた疑問「米軍基地がすぐに動かせないのなら、なぜ小学校を安全な場所に移転させないのだろう」という謎がこの本を読んで解けてきた。
子供たちを人質に差し出して、米軍基地の移転を勝ち取ろうという戦略は、間違っている。
この本は、「決断できない日本」というタイトルだが、ジャイアンのようなアメリカと、のび太のような日本が、いかにしてこれからもトモダチであり続けられるか、ということを考えさせられる本だった。
![]() | ![]() | 決断できない日本 (文春新書)
著者:ケビン・メア |
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