『COW HOUSE―カウハウス』(小路幸也著) 人間関係を大切に育んでいったひとが、実は会社では重宝されたりする
25歳にして左遷され、鎌倉にある会社所有の大豪邸の住み込み管理人となった主人公。そこは無人のはずだったのだが、赴任初日、敷地内のテニスコートでテニスをしていた老人と子供がいた。そして、主人公に引き寄せられるように屋敷には次々とワケありの人たちが現れる。そして、主人公はある決心をする。
小路幸也は家族関係、友人関係を描くことが多いが、この作品は会社が舞台である。しかし、主人公が築いて行くのはやはりあくまで人間関係。仕事に厳しくとくに冷徹な上司、自分の家の前で生き倒れ状態になっていた彼女、赴任先に不法侵入していた老人と子供、ピアノの調律にきたアフロの男。それぞれが観た目では測れない人生を抱えて生きている。
そして、主人公も。主人公は阪神淡路大震災で両親や友人たちを亡くし、それだけに会社や周りのひとたちを人一倍、家族のように大切にしようとする。それが左遷の原因となった事件を起こし、それでも上司の計らいでクビにならずに左遷で済み、後に『カウハウス』と呼ばれるコミュニティを形成する、その中心となっていく。
仕事をしていると、利害関係や競争がからんでくると、他者をかまってられない、という状況も起こりうる。しかし、そこで生まれた人間関係を大切に育んでいったひとが実は会社では重宝されたりする。慣れ合いだとか、そういうことではなく、そういうまっすぐな想いはやはり企業にとってもプラスに働くのだ。そういうことがわかっている企業はちゃんとそれを評価している。そういう想いを持ち続けること、そういう想いを受け止める関係、環境を維持していくことはは難しいが、だからこそ、それを持ち続けることが実は大切なのだ。
COW HOUSE―カウハウス (ポプラ文庫)
著者:小路 幸也 |
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