『青年のための読書クラブ 』(桜庭一樹著) 学園のアウトローたちだけが、女の園で繰り広げられる茶番を醒めた目で観ている
これは、『マリア様が見ている』に代表される一般的に描かれる耽美的で神秘的な女子高の物語のパロディですよね。この学園でも年に一度、「王子」が選ばれる。そういう「いかにも」な状況がありつつも、この物語は「いかにも」なものにならない。
マリア様の銅像を中心に、東の院には貴族院たる生徒会が君臨し、それに対する西の院には「王子」を排出する演劇部が君臨する。北の院にはインテリヤクザたる新聞部が、そして、南の院には学園のはぐれ者、読書クラブが君臨する、という構図。この物語は、学園のはぐれ者たる読書クラブで語り継がれる、この学園のウラの歴史によって紡がれていく。
まず、第一話目から、この物語が一筋縄ではいかないことを宣言する。決して耽美な女子高物語には似合わない風貌の読書クラブの部長が、女子高で好まれるであろう「王子」像にそった「王子」を捏造する。「王子」は醜いシラノのかわりに愛の言葉を呟く。しかし、「王子」はあっさりと女の園を去り、男のもとに走る。
つまり、女の園は楽園のように見えて、女の幸せはそこにはない、女の幸せは女の園の外にある、ということがこの物語の冒頭から語られる。女はそれを知っているくせに、女の園に逃げ込み、そこから目をそらし、女の園で茶番をくりかえしている。学園のアウトローたちだけが、それを醒めた目で観ている。そのまったく、良くできたパロディだ。
![]() | ![]() | 青年のための読書クラブ (新潮文庫)
著者:桜庭 一樹 |
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