『リスの窒息』(石持浅海著) 身動きがとれなくなった報道機関が見出した活路とは
『身代金要求の件』―昼どきの秋津新聞社投稿課に一通の電子メールが届く。添付ファイルには、拘束された女子中学生の写真が。女子中学生を誘拐したと思われる犯人は、彼女の両親にではなく、新聞社に身代金の要求をしてきたのだ。
この一通のメールが、新聞社を揺るがす。「警察に通報したら人質を殺す。」最初は警察に通報し解決を図ろうとするが、新聞社の内部事情や敵対する出版社との確執などにより、新聞社は警察に通報することもできなくなり、まさに手詰まり、身動きが取れなくなる。
見ず知らずの少女を救うため、新聞社は身代金を支払うのか。矢継ぎ早に送られてくる脅迫メールの内容はエスカレートしていき、取材と報道という武器を失った新聞社は窮地に立たされていく。そんな中、元社会部の細川と地方から投稿課に配属されたばかりの舞原は活路を見出そうとするのだが、、、
石持作品の特長である、(1)犯人が巧みに誤った方向に誘導しようとする、(2)名もない探偵が活躍する、の両方が楽しめる。早い段階で明らかになるのだが、これは拘束された女子中学生による狂言誘拐である。女子中学生にエリートである新聞社の重役たちが振りまわされる様を著者は読者の前に晒す。すべてを知っている読者にとっては愚かと思われることも、何も知らない当事者にとっては切実だったであろうことが想像でき、最後まで気を抜けずに一気に読ませる。
そして、記者が見出した活路は、「調査」である。諦めずに事実を精査し、僅かな手掛かりから仮説をたて、それを検証する。そういう地道なタンテイが記者の本分であることがわかる。そして、現場の記者がそれができなくなっていることもわかる。『リスの窒息』とはこの狂言誘拐を企てた女子中学生に向けた言葉であるが、それは同時に報道機関に向けられた言葉ではないだろうか。
![]() | ![]() | リスの窒息 (朝日ノベルズ)
著者:石持浅海 |
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