『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか―現実に向き合うための8の教訓』(リチャード S テドロー著) 失敗は自分にとって都合の良くない現実を直視せず、現実に立ち向かおうとしないことから引き起こされる
帯やサブタイトルにある「8つの教訓」が目を引く。
1.手遅れになるまで危機を待たない
2.事実を曲解しても、待ち受ける現実は変わらない
3.権力は人を狂わせる
4.経営陣は、悪い知らせを聞く耳を持つ
5.長期的な視野に立つ
6.バカにしたり、歪曲した言葉遣いには要注意
7.隠すことなく真実を語る
8.失敗は、常識に囚われることから始まる
まったく、8つともそのまま、民主党と菅直人氏の政権運営の失敗から得られる「教訓」になっていることが興味深い。
この本で「8つの教訓」が語られるのは最終章のみで、この本の大部分は『否認』というものをテーマに、優秀な経営者が犯してしまった失敗、逆に失敗を回避したり失敗から立ち直った事例の集大成である。
著者が集めた事例では、失敗はすべて『否認』から引き起こされる。失敗は、自分にとって都合の良くない現実を直視し立ち向かおうとしないことから引き起こされる。それは頭の良さ悪さによるものではなく、優秀な経営者でもその罠に陥る。
T型の成功に固執したフォードの経営者は、彼の執務室から街を眺めれば、街にはフォードの黒くて同じ型の車だけでなく、色とりどりの様々な型の車が走っていることに気付いていたはずだ。全米一の小売王も、他の店を覗いてみれば、お客様がどんなものを買っているかに気付いたはずだ。しかし、彼らはその都合の悪い現実を「見ないふりをした」。市場を観れば、働いているひとの現場を観れば、そこにある問題に気付くはずである。しかし、上手くいっているのだから問題など起こらないはず、そういう都合の悪いことは認めたくないのが人間というものだ。
『否認』は人間のもつ心の動きである。だから、人間から『否認』を排除することはできない。そうであれば、「人間は否認する生き物である」ということを肝に銘じて、『否認』という症状を引き起こさないような状態を維持して、もし『否認』という症状が出始めたときに早めに手当をすることを心がけるしかない。
その処方箋としてヒントになるのがインテルの事例だ。インテルはメモリーICの製造で成功していたが、日本勢の安値攻勢でメモリーICからの撤退とマイクロプロセッサへの転換を余儀なくされる。それがインテルが生き延びる道であることは経営陣はわかってはいるのだけれど、それに踏み切れない。
そのとき、インテルの経営者はこう自問し、そして答えを見つけ出す。
「僕らがお払い箱になって、取締役会が新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をするだろう」
「それなら僕らが一度会社を辞めたつもりになって、自分たちの手でそれをしたらどうだい?」
会社の中にずっといると自分たちの仕事をなかなか「外部からの目」でみることはできない。自分たちが今していることが問題がある、と否定されることを私たちは恐れ、嫌う。しかし、それが『否認』という罠である。その罠に陥らないためには、「外部からの目」で見直してみる、ということが重要だ。
そして、それはひとを入れ替えなければできない、ということではない。『否認』という罠に陥らないためには、「外部からの目」という視点を持つことと、それを乗り越えるのは外部の人間ではなく自分たちだという自覚と行動が要求される。それは経営者のみならず一般社員に至るまでそれぞれがそれぞれの立場で要求されるものである。
![]() | ![]() | なぜリーダーは「失敗」を認められないのか―現実に向き合うための8の教訓
著者:リチャード S テドロー |
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