『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』(小路幸也著) 「東京バンドワゴン」シリーズのエピソード0。咲智子が嫁いだ堀田家で繰り広げられる物語は、サチという語り手を得て、美しい青空を紡ぎ始める
『東京バンドワゴン』シリーズの語り手であるサチさんと、古本屋・東京バンドワゴンを営む堀田家との出会いを描いた番外編。まさに「エピソード0」である。
昭和20年。終戦直後の東京で華族の娘、咲智子は父親からある文書が入った<箱>を託される。その<箱>を奪おうとGHQが彼女を追う。彼女の窮地を救ったのが、古本屋・東京バンドワゴンの二代目、堀田勘一。彼と彼の仲間たちは咲智子を古本屋・東京バンドワゴンに匿おうとする。
彼女が託された<箱>には、どうもやんごとなきお方のお言葉が入っているらしい。この国の未来をひっくり返しかねない国家の最高機密を巡って、GHQからヤクザ者までがその<箱>とその<箱>をもって逃げた咲智子を追う。(社会を転覆させる力を持つ<箱>と言えば、ついガンダムUCを連想してしまうが。)
「文明文化に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」
堀田家の家訓である。彼らはとてつもないお節介をもって咲智子を守る。まさにそれはイノチガケなのだから、お節介にもほどがある。そして、その解決方法は暴力によるものではない。古本屋・東京バンドワゴンのモットーでもある、人類の叡智をもって彼らは戦う。
昭和20年、終戦直後。東京は焼け野原だったけれども、希望だけはあった。街には敵国語で使うことを禁じられ、聞いたこともなかった英語の会話が溢れ、東京の空には陽気な英語の歌が溢れた。それを無念の思いで聴いていたひとたちももちろんいただろうが、そういう状況にも希望をみたひとたちもいただろう。
「せまいながらも楽しい我家/愛の灯影(ほかげ)のさすところ/恋しい家こそ私の青空」
マイ・ブルー・ヘブンという歌の日本語訳詞である。咲智子はhappyのサチとなり、堀田家に嫁ぐ。彼女の嫁いだ堀田家と古本屋・東京バンドワゴンで繰り広げられる物語は、サチという語り手を得て、この歌詞のとおり、美しい青空を紡ぎだしている。
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