『飛鳥の都〈シリーズ 日本古代史 3〉』(吉川真司著) この本に書かれている以上に、この時代は謎に包まれている
岩波新書の「シリーズ 日本古代史」はいよいよ7世紀に入った。7世紀は、推古天皇・聖徳太子の時代から、大化の改新、壬申の乱を経て、大宝律令が発布される直前までの時代。この日本という国のかたちが徐々に定まり始めた頃である。
私はこの時代から奈良時代までが日本史の中で一番興味がある。どうやってこの日本という国ができたのか、それを問うことは日本人とは何か、を問うことにつながる。そして、この時代は謎が多い。その謎を解いていくためには、タンテイの仕事が要求される。好奇心をそそる時代でもある。
しかし、この本からは、そういう面白い時代なのだ、ということが残念ながら伝わってこない。確かに、東アジアの一部としてこの時代の歴史を捉えなおしているあたりは素晴らしい。それでも、著者はあとがきでこれは「現時点における学会の通説ではない」と言っているが、しかし、あまり目新しさが感じられなかった。
その理由のひとつには、日本書紀の記述というものをそのままベースにして歴史を捉えていることにあるのではないろうか。著者もあまりにもつじつまが合わない記述は切り捨てているが、基本的には推古天皇以降の日本書紀の記述は正しい、という立場のように感じられた。
何故、聖徳太子の子孫は滅んでしまったのか、とか、何故、天智天皇は皇太子になってから即位までかなり時間がかかってしまったのか、とか、この時代は謎だらけなのだが、そういう謎に挑もうとするようなこともなく、ただ淡々と日本書紀の記述をもとに歴史を記述してるようである。
たしかに、大宝律令につながるような律令がこの時代からできていたとか、戸籍やムラが作られていったとか、そういう社会の整備が国家の形成には必要だっただろう。しかし、その一方で、天武天皇は伊勢に斎宮をたてるなど、神事、祭事もまた祭りごとの重要な意味を占めていたのではないだろうか。法治だけが、国を成り立たせる要素ではないのではないか。
![]() | ![]() | 飛鳥の都〈シリーズ 日本古代史 3〉 (岩波新書)
著者:吉川 真司 |
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