『競争と公平感―市場経済の本当のメリット』(大竹文雄著) 「ひとり勝ち」をさせない市場のルールつくりと、既得権をもつものからの富の再分配。いずれも難しい問題だ
冒頭で、著者は読者に対してこんな質問を提起する。
「質問 あなたが漁師だったとしよう。一定の労働時間で、最大の所得を得るにはどのように働くべきだろうか
1 毎日決まった時間に漁に出て、決まった時間漁をする
2 魚が多く獲れそうな天候の日に長時間漁をして、そうでない日は他のことをする
3 魚が少ない日に集中的に漁をする
4 誰よりも早く漁に出て、魚が獲れなくなるまでがんばる」
実は、1-4、いずれの戦略も間違っている。しかし、漁師たちは4の戦略を選択している。何故かというと、総漁獲可能量の規制があり、漁をする時期にも規制があるため、他の漁師を出し抜いて、とにかく可能な限り多くの分け前を自分のものにしなければならない、という強迫観念に駆られてしまうからだと言う。つまり規制があるがために、漁師たちは最適とは言えない働き方を強いられるし、そのツケは漁師だけでなく消費者である私たちも支払うことになる。
格差の広がりというものを私たちが生活の中で意識するようになって、市場経済が悪なのか、という意識が私たちに芽生えてしまった。小泉政権下での過度な市場至上主義、改革と言いながら結局は改革推進に便乗できた大企業だけがメリットを得られたのではないかという不公平感が、それを助長した。
競争が全くない市場経済は健全とは言えない。しかし、その競争とその結果が公平であると思えない限り、その競争とその結果に納得できない。
競争は公正に行われなくてはならない。特定のひとや企業が利益を独占するような市場は決して公平とは言えないし、競争に敗れたひとがすべてを奪われて再起できないような状況も決して公平とは言えない。著者は競争に敗れたものに対するセイフティネットの必要性を主張している。競争によって得られた富を再分配できるようなしくみも必要だろう。
しかし、競争によって得られた富を再分配するようなしくみは、現状、十分とはいえない。競争に勝ったものは、それを当然の結果(既得権)として容易に手放そうとはしないからだ。自分が努力して得られた結果は自分(だけ)のもの、という考えが良し、とされてきたからだ。
著者も既得権を持つものたちがその既得権にしがみついてそれを手放そうとしない、ということが問題だと提起している。そのためには、「ひとり勝ち」をさせない市場のルール作りも必要だろう。しかし、既得権をもつものたちに既得権を移譲せよ、と言うだけではなかなか富の再分配は進まないだろう。いずれも難しい問題だ。
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