『そこへ届くのは僕たちの声』(小路幸也著) 「自分たちにしかできないことをする」。子どもたちの決意に泣かされる
SF小説というかファンタジー小説である。発端は、植物状態にあるひとからメッセージが届くという不可解な出来事から始まり、多発する謎の誘拐事件、そして最後の事件へとつながっていく。
この物語のキーワードは「ハヤブサ」である。この名前から、最近帰還した宇宙探査船のことを連想するかもしれない。この物語にも天文台が出てくるし、宇宙飛行士を夢見る少年も登場する。文庫版の表紙絵も星空をイメージさせるし、物語全体が宇宙というものにつながっているかのような印象を受ける。
途中から、「空声」そして「遠話」という特殊能力が明らかになってくる。特殊な子どもだけがもつ、この特殊な能力が事件を起こし、そしてある事件を解決する。
「自分たちにしかできないことをする」。子どもたちのこの決意は、まさにイノチガケの決意となるのだが、この「自分たちにしかできないことをする」というシンプルな決意こそ、実行することが難しい。しかし、子どもたちは、自分の命をかけてまで、多くのひとを救うために、「自分たちにしかできないことをする」のである。それがこの物語のクライマックスである。
そして、子どものそういう決意を”見守る”ことこそが大人の役割である。時にそれは苦しさを伴うかもしれないが、子どもたちが「自分たちにしかできないことをする」ことを助けることが、この世界をちょっとづつ良くしていくことにつながるのではないだろうか。
遠くの世界に行ってしまった「ハヤブサ」は宇宙のかなたに旅立っていったのだと思えば、もしかしから宇宙探査船「ハヤブサ」のように長い時間をかけて帰還するかもしれない。いつか戻ってくるかもしれない「ハヤブサ」にこの世界がちょっとでも良くなっていることを示すことが、彼らの生きる糧になっていることは素晴らしいことだと思う。
![]() | ![]() | そこへ届くのは僕たちの声 (新潮文庫)
著者:小路 幸也 |
« MtG:『ミラディンの十字軍』を引きました | トップページ | 『荒野 14歳 勝ち猫、負け猫』(桜庭一樹著) 男子も女子も恋に目ざめ始め、だんだんと荒野は成長していく »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 【安吾を読む】『木枯の酒倉から 聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話』「俺の行く道はいつも茨だ。茨だけれど愉快なんだ。」(2014.07.11)
- 『金融緩和の罠』(藻谷浩介・河野龍太郎・小野善康著、萱野稔人編)金融緩和より雇用を増やすことこそがデフレ脱却の道。(2014.07.10)
- 『ひとを“嫌う”ということ』(中島義道著)ひとを「嫌う」ということを自分の人生を豊かにする素材として活用すべき。(2014.07.09)
- 【安吾を読む】『街はふるさと』「ウガイをしたり、手を洗ったりして、忘れられないようなことは、私たちの生活にはないのです。」(2014.07.08)
- 『天災と日本人 寺田寅彦随筆選』(寺田寅彦著,山折哲雄編)地震や津波といった天災からこの国を守ることこそが「国防」である。(2014.07.04)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント