『風をつかまえた少年』(ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー著) アフリカの小さな国に生まれたウィリアム・カムクワンバ少年は、「学ぶ」ということの意義をその存在をもって私たちに教えてくれる
池上彰さんのテレビ番組で紹介されていた物語。その番組を観るまで、アフリカに「マラウイ」という国があることすら、私は知らなかった。
この物語の主人公であるウィリアム・カムクワンバ少年は、このアフリカでも最も貧しい国といわれるマラウイ共和国に生まれる。その国に飢餓が起こり、さらにひとびとの暮らしは困窮していく。ウィリアム・カムクワンバ少年の家族も彼の学費が払えず、彼は中学校に通えなくなる。
しかし、彼は学ぶことを諦めず、NPOが作った図書館に通い続け、物理に興味を持つようになる。そして、彼は風車が電力を作れることを知り、そして、風車を実際に作ろうとする。周りのひとの嘲笑や迷信にさらされながらも、彼は信念をもって風車を作り、そして、実際に電力を起こしてみせる。彼の活動は国内外から注目を集め、まさに、彼は「風をつかまえた」のである。
私たちは、「飢餓」と言われてもピンとこない。1日に1食した食べられない状態、明日の食糧がない状態、ひとびとが食料を奪い合う状態、私たちはそういう暮らしを想像することすらできない。食べ物やモノが街中にあふれ、売れ残った食料がひとの口に入ることなく廃棄されていく。そういう国にくらしていると、「食べるものがない」ということがどういうことなのか、を想像することすらできなくなる。
太平洋戦争直後の日本も「食べるものがない」状態だったかもしれない。食べるものもない、モノも満足にない、焼け野原の状態をこの国は経験した。そこから40年以上、この国は経済成長を続けた。その原動力はなんだったのだろう。勤勉さだとか、がむしゃらさ、という答えが返ってきそうだが、それだけではないのだろう。
モノが溢れかえった時代では、「プランB」は必要ない。モノが潤沢にあると、すでにそこには、ベストと思われる「プランA」が用意されており、それが簡単に手に入ってしまう。したがって、「プランB」を考える必要がなくなり、「プランB」を考えなくなる。
これは危険である。「プランA」しか頭にないひとは「プランA」が行き詰ったときに、思考停止になり、何もできなくなる。ひとには「どうしてプランAなんですか。プランBじゃダメなんですか」とヘーキで言うくせに、自分たちはマニフェストという「プランA」が行き詰った時に何にもできなくなる民主党政権が良い例だ。
大切なことは、「プランA」がダメなら「プランB」、「プランB」がダメなら「プランC」、というように柔軟に対応していくことである。そして、そういう能力を身につけることを「学ぶ」と言う。
アフリカの小さな国に生まれたウィリアム・カムクワンバ少年は、「学ぶ」ということの意義をその存在をもって私たちに教えてくれる。
モノがなければ工夫をしてなんとか間に合わせようとする。「プランA」がダメなら「プランB」を試してみる。日本では誰も自分で風車を作ろうとしない。でも、彼は作った。
彼の風車や電気器具の設計図を見ると、子どもの落書きのようにも見える。しかし、そんな稚拙な設計図でも未来を作っていけるのである。コンピュータを使って精巧な設計図をひくことはさほど重要ではない。いくらそうして精巧な設計図を作ったとしても、それが実際に実現しなければ、まさに絵に描いた餅でしかないからだ。日本の企業は腰が重いと言われるが、精巧な設計図よりわくわくするような設計図こそ、必要ではなかろうか。
「貧すれば鈍す」というのは大きな間違いだということを、この本は教えてくれる。要は自分たちの生活を少しでもよくしていこうとするかどうか、そこにどれだけ力を注ぐことができるか、そのためにどれだけ学び続けることができるか、ということに尽きる。
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著者:ウィリアム・カムクワンバ,ブライアン・ミーラー |
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