『売り方は類人猿が知っている』(ルディー和子著) 人間も進化の歴史から逃れられない。ヒトの本質と向き合おう
不況に直面して購買を控える現代人は、猛獣に怯えて身をすくめるサルと同じだ。ヒトもまた進化の道を歩んできた動物であり、動物の「本能」を通して、人間の感情を分析すれば、消費者の行動形態もよくわかる、というもの。
「進化心理学」というちょっと耳慣れない学問であるが、と面白そうな視点だな、と思って買って読んでみた。
「不安なホモ・サピエンスはモノを買わない」
ヒトが最初に覚えた感情は「恐れ」と「怒り」だそうだ。捕食者や天災を避けるために「恐れ」を抱き、捕食者や天災を避けられなかったときに「怒り」を抱く。それは現代人にも通じている。ヒトは不安だとモノを買わない。
「人間もサルも『得る』より『失う』を重く考える」
「妬み」が民主主義を生み、不平等をなくすように働く。集団で狩りをするようになったヒトはそうすることにより集団として生き延びようとしてきた。そして「妬み」は「失う」ことの「恐れ」を助長する。
「金持ち父さんは貧乏父さんがとても気になる」
ヒトは他人の目が気になる。だから、不況でみんなが買い控えすると、お金持ちですらお金を使うことに罪悪感を覚えて買い控えしてしまう。
人間の脳には「ミラーニューロン」という他人に感情移入や他人と共感できる神経細胞があるそうだ。「あなたの気持ちは痛いほどわかる」というドラマなクサイ台詞も、人間が持っている素晴らしい機能なのだ。それが人間を社会的な動物にしている。ひとはひとりでは生きられないのである。
「自動車の売上と孔雀の羽との関係」
孔雀の羽も自動車もセクシャル・ディスプレイの象徴なのだが、若者は車を買わなくなった。そういう性的なひけらかしは無駄なものとなってきている。婚活を助長すれば消費が伸びる、というのはあながち嘘ではなさそうだ。
「感情と記憶が長寿ブランドをつくる」
長寿ブランドを作るためには、諦めずに長く続ける、ということだ。そして、それを楽しい思い出と結び付けられればなお良い。
「人間も進化の歴史から逃れられない」
ヒトの歴史の大部分は狩猟生活だったので、その本質からすんなりと抜け出すことはできない。ヒトという生物の本質を捉え、それとしっかり向き合うことも大切だろう。
この本はマーケティングや広告の本なのだが、そういうものにいちいち結び付けずに、ヒトとはどんな生き物なのか、ということを突き詰めた本になっていれば、もっと面白かったと思う。
![]() | ![]() | 売り方は類人猿が知っている(日経プレミアシリーズ)
著者:ルディー 和子 |
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